2017年8月10日木曜日

ベーシックインカムの本当の目的

ベーシックインカムには様々な目的が考えられます。平等な社会の実現、経済成長、社会福祉の効率化。主張する人によって様々ですが、人工知能やロボットが急速に進化する今日におけるベーシックインカムの本当の目的は何でしょうか。

(じいちゃん)
今日は「ベーシックインカムの本当の目的」について考えてみたいと思う。これは恐らく人によって違うと思うので、あくまでもワシが考えるところの本当の目的じゃよ。さて、ねこはベーシックインカムは何のために行うべきだと思う?

(ねこ)
う~ん、格差をなくして平等で貧困のない社会を実現するためかにゃあ。

(じいちゃん)
確かにそれは目的の一つとして大切じゃな。もし50年前にベーシックインカムを推進するとすれば、それが最大の目的だったはずじゃ。じゃが今日における目的は、大きく変わりつつあると思う。人工知能やロボットの急速な進化に対応することが最大の目的になると思うんじゃ。テクノロジーの進化によって、ワシら人類の経済は「新しい段階」に移行しつつあると思われるからじゃ。

そもそも、人工知能やロボットを何のために進化させるのじゃ?それは、ワシら人間が働かなくとも豊かに暮らせる社会を実現するためじゃろう。未来のSF科学小説にも出てくるあの暮らしじゃよ。そういう社会になれば、社会には人工知能やロボットが作り出す様々なモノやサービスが格安で豊富に供給されるようになるはずじゃ。すると、結果として人間は平等になるし、貧困も解消されるじゃろう。経済も安定して持続的に成長出来るはずじゃ。もちろん成長と言っても、暮らしの必要に応じた範囲での成長じゃよ。

しかし、逆に最初から平等な社会の実現を目的としたり、経済成長を目的とすると、生産活動の中心が人工知能やロボットに移行する過程において、少々問題が生じるんじゃないかと心配しておるのじゃ。

(ねこ)
ふにゃ、どんな心配なのかにゃ?

(じいちゃん)
平等な社会「だけ」を目的としたり、経済成長「だけ」を目的として、それさえ達成すれば良いとの考え方になってしまうのではないかと心配しておる。もちろん単なる杞憂かも知れんがの。

たとえば「平等になればよい」と考えると、平等でさえあれば貧しくなっても良いという話になるかも知れん。その結果、平等だが国民すべてが貧しくなる。人工知能やロボットが自動的に富を生み出す時代になれば、国民全員が貧しくなるはずがない。しかし単純に言えば、国民に支給するベーシックインカムの金額を絞ってしまえば、どれほど機械が進化しても国民の豊かさは支給される金額の上限を超えることはない。じゃから財源ばかり気にして配るおカネをケチるとちっとも豊かにならんじゃろう。

あるいは「最低生活が保障されればよい」と考えると、仕事のない人はベーシックインカム以外に収入がないのじゃから、失業者はすべて最低生活水準になってしまう。それで良いと思う人もおるかも知れんが、何しろ人工知能やロボットによって人間の担うべき仕事はどんどん減ってしまうから、失業するのがあたりまえの社会になる。極端に言えば、やがて人口の99%が失業して最低生活となり、仕事にありついた残り1%が残りのすべての富を手にする「究極の格差社会」になるかも知れん。

また「経済成長すればよい」と考えると、とにかく経済規模を拡大しなければ気が済まなくなる。経済規模はモノやサービスの生産量に比例するため、年を追うごとに生産量を増大させることになるが、そんなことをしていたら地球の資源は直ぐに枯渇してしまうし、環境も破壊されてしまうじゃろう。資源がきちんとリサイクルできる範囲に総生産量をコントロールしなければ早晩、経済そのものが破綻してしまう。

まあ、話はかなり極端じゃが、人間は何につけ「極端になる性質」があるみたいじゃから、用心に越したことはないじゃろう。

(ねこ)
うみゃ~、なんか愚かなのにゃ。じゃあ、なにを目的・目標とすればいいのかにゃ。

(じいちゃん)
ワシは「ユートピアの経済システム」を構築することが真の目的じゃろうと考えておる。それは永遠の持続性が必要とされる。そのようなシステムは単に物理的に永続性が確保されるだけでなく、人々によって永遠に認められなければ持続可能であるとは考えない。つまり不幸な人を生み出すようなシステムは持続不能である。

そしてベーシックインカムはあくまでも、ユートピアの経済システムを構築する途上における一つの方法論に過ぎないと考えておるのじゃ。つまりベーシックインカムは到達点ではなく、出発点であると。おそらく未来社会では貨幣すら不要となるはずじゃ。もちろんそれは遠い未来、ワシがもうこの世にはおらん時代の話じゃろう。

そうした社会に一足飛びに到達できるわけではない。ビジョンと計画を持ち、足元をしっかり固めつつ、一歩一歩着実に実現に向けて歩む必要がある。100年レベルの計画じゃよ。そこへ至る過程において、今まさにひとつの山場に差し掛かっておる。それが人工知能やロボットがもたらす失業者の増加の問題じゃ。

そもそも人工知能やロボットが人間の仕事を代わりに行うのだから、これは「働かなくて良い社会」に向けて大きな前進となるはずなのじゃが、驚くべきことに、これが人間の所得を奪う結果をもたらす。これは明らかに現在の経済システムに致命的な欠陥があることを示しておるのじゃ。それが「所得は必ず労働によってもたらされなければならない」というシステムじゃ。

ベーシックインカムの導入によって、このシステム上の欠陥を修復し、山場を乗り越える。それがベーシックインカムの最大の目的であると考えておるのじゃ。そして、それは単に経済システムの進化の過程のおける山場を越えるのみならず、多くのメリットをワシらに与えてくれるのじゃ。それが格差の縮小、貧困の根絶、経済成長などじゃ。じゃから平等社会の実現や経済成長はあくまでも副次的な成果であると思うのじゃ。

~本編サイトと同時掲載