2012年1月28日土曜日

増税の代案・NEED法案について

NEED法案(国家非常事態雇用防衛法、HR 2990)とは米国において2011年9 月21 日にデニス・クシニッチ下院議員によって議会に提出された法案です。その目的は「カネがカネを生む」投機的なマネーゲームに終止符を打ち、働いて財を生産することで豊かになるという「堅実な社会」を実現する事にあるようです。これを日本でも導入すれば増税の必要が無くなるかも知れません。

同志社大学大学院ビジネス研究科教授の山口薫先生によれば、この法案の骨子は3 点であるとのことですが、金融について知識の無い普通の素人には補足的な説明が必要かも知れませんので、自分なりに考えてみました。

①米中央銀行を財務省に統合し、貨幣の発行は政府だけが行う

通貨制度は国の経済の根幹に関わる制度であり、おカネの発行や管理は国が行っていると普通の人は理解しています。だから中央銀行は国の機関であると思い込んでいます。しかし実態は違います。民間企業が行っています。米中央銀行(FRB)は民間会社なのです。日本ではやや曖昧ですが、アメリカの民間企業は「株主利益が最優先」です。コーポレートガバナンスも社員のためではなく「株主のため」にあるのです。そのような性質を持つ民間会社が国の通貨制度を管理するなら何が行われるか?当然、株主の利益が最優先されるでしょう。ちなみに、FRBが設立してまもなく世界的なバブルが発生し、その後の大恐慌へと突入します。

したがって、中央銀行を財務省に統合するとは、私物化した中央銀行を「公共の手に取り戻す」ということです。通貨制度の主権は国民にあるのですから。そして、私企業が通貨を発行するのではなく、政府が通貨を発行する「政府通貨」に戻すということです。アメリカも1862年から1879年まで当時大統領のリンカーンが「グリーンバック」と呼ばれる政府紙幣を発行し、これを財源とすることで北軍は南北戦争に勝利します。その後1870年~1900年頃にかけてグリーンバックの発行継続による経済成長を望む「グリーンバック運動」が人々の間に広がり、グリーンバック党が結党されて多くの支持を集めました。

なお、日本銀行も株式会社です。日本銀行が独立性を獲得した1998年以降、日本は世界に例を見ない15年以上のデフレに突入しています。

②無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする

多くの人は、おカネは中央銀行が作っていると信じています。しかし実際に流通している貨幣のほとんどは民間銀行が「貸付け」として作り出した債権です。それが預金と呼ばれる通貨です(多くの人が勘違いしますが、預金とは貯金の事ではありません)。それに対して中央銀行の作ったおカネは現金と呼ばれます。民間銀行がおカネを作るとはどういうことか?

銀行は、たとえば100万円の現金を元手に、1000万円のカネを貸し付けることが許されています。つまり900万円を水増しします。これが「信用創造」と呼ばれるマジックです。そして誰かに貸し付けたおカネが世の中を回って私たちの給料として振り込まれています。私たちの給料も、元はすべて誰かの借金なのです。

そして100万円のカネを10倍にも膨らませて貸し付ける~つまりこの仕組みが「バブル」を生むのです。そしてマネーゲームが生じる原因もここにあります。つまり民間銀行が勝手におカネを作り出す事を止めさせる事で、バブルの発生と崩壊を防ぐ事ができるのです。おカネは民間銀行ではなく、政府が発行する。それが民主国家の原則ですね。

③ 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する

経済成長にはおカネが必要です。おカネが不足した状態だと経済は「デフレ」になります。デフレで何が起こるのか?今の日本人には痛いほどわかるはずです。不況で失業者が溢れ、自殺者が年間3万人(自殺認定以外を含めればさらに)になり、人々の所得が減って貧しくなり、財政が破綻する。おカネは循環するごとに一定割合が常に貯蓄として退蔵されてしまいますので、おカネを常に増やし続けなければデフレになります。ですから政府は毎年一定の割合でおカネを供給し続ける必要があります。そのために発行する通貨を政府が財政支出として利用すれば、公共投資や社会福祉財源などに充てることが可能となります。政府が紙幣を発行すれば国債を発行する必要はありません。返済のための増税を行う必要も無いのです。

以上が3つの骨子です。残念ながらアメリカでも日本でも、多くの国民が金融に関する知識をほとんど持っていません。「信用創造」という言葉すら知らない人がほとんどです。なぜでしょうか?マスコミが決して金融の仕組みに触れないからです。マスコミにとって金融に都合の悪い部分に触れることは最大の「タブー」なのです。御用マスコミしか存在しない日本の悲劇ですね。

多くの国民は金融に無知なままバブルに踊らされ、不況に苦しみ、「1%の人々」の利益のために一生を働き続ける事になるのです。

そんな日本でも金融の本質に切り込んだ意欲的なアニメ作品があります。「C」The Money of soul and possibility control.というタイトルで、制作はタツノコプロです。

2012年1月22日日曜日

財政破綻で大成功したアルゼンチン

アルゼンチンはIMFの介入を受け、新自由主義政権の下で経済が崩壊し財政破綻したが、その後、新自由主義を排除し、目覚しい経済成長と福祉の実現を達成しつつあります。共産主義が病気であると同様に、新自由主義も国家を破綻に追い込む病気なのです。

「マスコミに載らない海外記事」というすばらしいブログがあります。そこでの記事「アルゼンチン: 何故フェルナンデス大統領が当選し、オバマが落選するのか」を以下に抜粋・一部修正して引用します。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-8c71.html

アルゼンチン、危機から、力強い成長へ

アルゼンチンの経済的破局と大衆反乱は、それまでアルゼンチンを支配してきた軍国主義と投機的略奪から、社会福祉と持続的な経済成長へという基本的転換を実現する好機となった。その結果、アルゼンチンはアメリカが後押しした30年間の略奪的新自由政権を脱し、「正常な資本主義福祉国家」を作り出すことに成功したのだ。

アルゼンチンは、1976年から1982年の間に、30,000人のアルゼンチン人を殺害した大量虐殺将軍達を生み出した、残虐な軍事独裁に苦しんだ。1983年から1989年まで、独裁政権時代の遺物に対処し損ね、三桁のハイパー・インフレーションの中で指揮をとった、新自由主義政権のもとで、アルゼンチンは苦しんだ。1989年から1999年、アルゼンチンは、最も利益の上がる、公企業、天然資源(石油を含む)、銀行、道路、動物園や公共トイレを、特売価格で外国投資家に売り渡された(追伸:世界銀行やIMFが介入した国では良くある搾取事例)。そして2001年12月、銀行が閉鎖し、10,000社が倒産し、最終的壊滅的崩壊に至った。

アメリカとIMFが推進した“自由市場”政策の全面的な失敗と人的災害を背景に(追伸:IMFの介入を受けた国家は長く貧困に苦しむが、アルゼンチンもそれ。IMFの実態を良く知るマレーシアはアジア通貨危機後にIMFを断固拒否して経済的に復活を遂げた)、キルチネル/フェルナンデスはアルゼンチンの対外債務をデフォールトし、民営化されたいくつかの企業と年金基金を再国有化し、銀行に干渉し、経済再生に向け社会的支出を倍増し、製造向けの公共投資を拡大し、一般消費を拡大した。2003年末までには、アルゼンチンはマイナスから、8%成長に転じた。

人権・社会福祉と独立した対外経済政策

アルゼンチンの経済は、2003年から2011年までに、アメリカ合州国の三倍以上、90%成長した。経済回復とともに、とりわけ貧困を減らす為のペログラムへの、三倍の社会的支出が行われた。貧しいアルゼンチン人の比率は、2001年の50%以上から、2011年の15%以下へと減少した。対照的に、アメリカの貧困は、同じ十年間で、12%から17%に増大した。

アメリカは、1%の人々がアメリカの富の40%を支配する(OECDで不平等が最大の国)。対照的に、アルゼンチンの不平等は半分に縮小した。アメリカ経済はリーマンショックで8%以上も下落し、2008-2009年の深刻な不況から回復し損ねた。対照的にアルゼンチンの落ち込みは1%以下で、堅調に、8%成長をとげている(2010-2011)。アルゼンチンは年金基金を国営化し、基本年金を倍増し、栄養不良対策と、就学を保証する、全児童に対する福祉プログラムを導入した。

対照的にアメリカでは、20%の子供たちが貧弱な食生活に苦しみ、青年の中退率は増大しており、少数民族の子供たちの25%が栄養不良状態にある。医療/教育の更なる削減が進むにつれ、社会状況は悪化するばかりだ。アルゼンチンでは、給与所得とサラリーマンの数は、実質で、10年間に50%以上増えたが、一方アメリカでは10%近く減少した。

アルゼンチンGNPの力強い成長は、成長する国内消費と、力強い輸出収入に支えられている。アルゼンチンの貿易黒字は有利な市場価格と競争力によって安定している。対照的に、アメリカの国内消費は停滞し、貿易赤字1.5兆ドルに迫り、歳入は年間9000億ドル以上の非生産的な軍事支出に浪費されている(追伸:だからTPPを強引に進めるわけだ)。

緊急援助と貧困に対するアルゼンチン式代替案

アルゼンチンの成功体験は、国際金融機関(IMF、世界銀行)、その政治支援者、経済新聞の評論家連中のあらゆる教えに反している。経済専門家達は口々に「アルゼンチンの回復は持続可能ではない」と予言したが、成長は十年以上にわたり継続した。金融評論家は、デフォールトすれば、アルゼンチンは金融市場から締め出されることになり、経済は崩壊するだろうと主張した。しかしアルゼンチン経済は出収入と国内経済の再活性化に基づく自己金融によって成り立っており、高名なエコノミストを当惑させている。

フィナンシャル・タイムズのコラムニストは依然としてアルゼンチンの「来るべき危機」について電波を飛ばしている。彼等は「高いインフレーション」「持続不可能な社会福祉」「過大評価された通貨」を持ち出してアルゼンチンの「繁栄の終わり」という予言を書きたてている。8%という成長率の継続や、2011年選挙でのフェルナンデス大統領の圧倒的勝利を目の前にして、自由主義者たちからの中傷誹謗は加熱するばかりだ。英米の金融関係ジャーナリスト連中は、学ぶ価値があるアルゼンチンの経済経験を中傷するのではなく、ヨーロッパと北米における自分たちの自由市場体制の終焉にこそ取り組むべきだろう。


2012年1月14日土曜日

消費税増税は生産性の向上で不要になる

増税しても問題の本質は何も解決できません。社会保障制度を考える上で最も重要な方針は、国民一人当たりのGDPを維持あるいは向上させることにあります。なぜなら国民一人当たりGDPとは国民一人一人が受け取る財(商品やサービス)の量を意味するからです。そして国民一人当たりのGDPを向上させるとは、生産性を向上させることなのです。

国民一人当たりGDPは豊かさの指標

GDPとは国内総生産のことです。国内で生産され消費された一年間の財(商品やサービス)の総額です。これを日本の全人口で割り算すると国民一人当たりが生産し消費した財の額になります、つまり国民一人が受け取った財の量です。一人一人が受け取る財の量が増えるという事は一人一人が豊かになるということです。つまり、高齢化が進もうと、人口が減少しようと、国民一人当たりのGDPが維持あるいは向上すれば国民生活は維持あるいは向上するのです(比較には物価変動分を差し引いた実質GDPを用います)。ですから国全体のGDPの変動だけを観察しても意味がありません。たとえ人口減少で国のGDPが減少しても一人当たりGDPが増加すれば国民の生活レベルはむしろ向上します。この事をしっかり理解しませんと、マスコミの大衆操作の術中にはまる事になります。

一人一人が産み出す財の量が多いほど分配も多くなる

国民一人当たりのGDPが大きいと言う事は、国民一人一人が生み出す財の量が多いということです。これは生産性が高いことを意味します。一人当たりの生産性が高ければ高いほど人々は豊かになるのです。国家経済は一人一人が生み出した財を交換し合って成り立っていますから、一人一人が多くの財を生み出せば生み出すほど分配も多くなります。それでも貧困層が多いのであれば、それは分配のシステムに欠陥があることになります。一部の層に財の分配が集中しているために貧困が生まれるのです。

増税は社会保障を根底から破壊する

生産人口が減少しても心配する事はありません。生産人口が減少しても、それを上回る生産性の向上があれば人々に分配できる財の量は減りません。つまり、生産性をいかに向上させるかが非常に大切なのです。ところで増税によって生産性が向上するでしょうか?いえ、むしろ生産性の向上を阻害します。増税はデフレを助長する事により企業の設備投資を減らしてしまいます。生産性の向上はテクノロジーの進歩がもたらしますので、企業の設備投資が減少することは生産性の向上を阻害する事になるのです。つまり増税によって、むしろ社会保障を根底から破壊します。

少子高齢化でも豊かになる日本

それでは、マスコミの主張するように少子高齢化で日本を支えられなくなるのでしょうか?簡単にシミュレーションしてみましょう。現在の生産性向上は年率2%程度です。これはデフレかつ生産人口がほぼ横ばいの日本における経済成長率です。つまり不況下でも年率2%は生産性が向上します。結論から言えば、生産性の2%成長を維持するなら、少子高齢化かつ人口減少でも25年後の日本はさらに豊かになります。




1)人口データ
  高齢社会白書の2010年と2035年の推計値。単位=千人。生産年齢15~59歳の場合。
  2010年の人口   127,176   2035年の人口 110,679
  2010年の生産人口 71,290   2035年の生産人口 53,802・・生産年齢は75%に減少

2)25年後の生産性を算出(指数表記)する
  Gn=ある時点における生産性(指数で考える)
  Gn+1=Gn×1.02  Gn=1として エクセルで25回ループ(つまり複利計算)。
  2035年の生産性G≒1.64・・・・① 25年後の生産性は1.64倍に増える。

3)2010年の国民一人当たりGDPを算出(指数)
  生産人口(7,129)×2010年の生産性(1.0)=7,129・・・2010年のGDP
  2010年の国民一人当たりGDP=2010年のGDP(7,129)÷2010年の総人口(127,176)=0.56

4)2035年の国民一人当たりGDPを算出(指数)
  生産人口(5,380)×2035年の生産性(1.64)=8,823・・・2035年のGDP
  2035年の国民一人当たりGDP=2035年のGDP(8,823)÷2035年の総人口(110,679)=0.8

5)結論
  2010年の国民一人当たりGDP(0.56)<2035年の国民一人当たりGDP(0.8)
   ゆえに、25年後にも日本の需要は十分にささえられる
  また、
  2035年の国民一人当たりGDP(0.8)÷2010年の国民一人当たりGDP(0.56)=1.43
   ゆえに、25年後の国民は現在より43%も裕福になる。


25年後の日本は生産人口が現在の75%へ減少する(人口推計より)。
しかし国民は40%も裕福になる。


日本の将来へ投資せよ

もちろん、このまま何もせずに居ればよいのではありません。地球資源の枯渇が目前に迫りつつあります。資源の不足は生産性の向上の極めて深刻な阻害要因となります(資源価格の値上がりと入手困難)。つまり手を打たなければ年率2%の生産性向上を維持できなくなるのです。これこそが最も危険です。財政収支は帳簿における単なる帳尻の問題ですから、金融システムの変更でいかようにもなります。あんな表面的な話で大騒ぎするとはまさに国会は「茶番」です。レベルが低すぎる。先を見通す眼力があれば、本質は「富を生み出す力」にあるとわかるはずです。

エネルギー供給と資源のリサイクルが日本の生命線となります。潤沢なエネルギー源と資源のリサイクルという強力なインフラが完成すれば日本の前途は必ず開けます。それこそが循環型社会です。デフレで余剰生産力が年間30兆円もある今こそ、社会資本に投資するチャンスなのです。そのチャンスを増税で潰すなど亡国以外の何物でもありません。

2012年1月8日日曜日

消費税増税の代案「NEED法」

新聞が代案を示せと挑発するので、代案の一つをご紹介します。これはアメリカで昨年9月21日にアメリカ議会に提出された法案であります。端的に言えば通貨制度改革であり、財政収支問題そのものを永久に解決する方法です。

(以下ネット上の記事より抜粋。)

米NEED 法案 貨幣改革 再生への希望に

金融システム崩壊から米国を再生させる法案が9 月21 日にデニス・クシニッチ下院議員によって議会に提出された。NEED法(国家非常事態雇用防衛法、HR 2990)と呼ばれるこの法案の骨子は3 点である。

① 民間会社である連邦準備制度理事会(FRB)−米中央銀行−を財務省に統合し、政府のみ貨幣を発行する。
② 無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする。
③ 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する。

金融・債務危機の根本原因はすべて誰がマネーを支配するかに帰着する。わが国のマネーストック(M1=現金通貨と預金通貨の合計)を例に取ると、実質「株式会社」である日銀が日銀券を約16%発行し、民間銀行が約83%の預金通貨(コンピュータ上の数字)を無から信用創造している。すなわち99%もの貨幣は、民間が利付き債務貨幣として発行している。

もしこの法案が通過すれば、貨幣は100%公共貨幣となる。その結果、米政府は債務を政府貨幣で徐々に完済でき、8 月2 日のような14.3 兆ドルの債務上限デフォルトの悪夢から解放される。サブプライムローンに端を発する銀行の暴走、金融危機を食い止めることができる。さらにインフラ、教育、医療、福祉、環境ビジネス等に必要なお金は政府が直接投入し、雇用の創出、内需拡大ができる。

この法案は、1929年の世界大恐慌の直後、その教訓をもとにシカゴ大学の経済学者らが呼びかけた貨幣改革提案「シカゴプラン」に依拠している。全米157 大学275 名(86%)の経済学者が当時この提案に賛成の署名をしたが、実現されなかった。今回も金融ウオール街は、ロビイストを用いて法案阻止の圧力を議員にかけてくると予想される。

私はこの夏、会計システムダイナミックスという新しい方法で開発したマクロ経済モデル(方程式約900 本)を用いて、NEED法の妥当性をシミュレーション分析で検証。増税なしでも国の借金は完済でき、不況、失業、インフレ、世界同時不況も引き起こさないという驚きの結果をえた。

— 京都新聞 2011年12月2日(金曜日)—
山口薫
同志社大学大学院ビジネス研究科教授