2017年8月8日火曜日

オイルショックのイメージから脱しない国民

インフレになると生活が圧迫される(生活が貧しくなる)と考える人が今でも多いようです。しかし、実際には「生活が豊かになるからインフレになる」のであって、必ずしもインフレが人々を貧しくするわけではありません。

なぜ生活が豊かになるとインフレになるのでしょう。インフレは消費が増加すると生じます。消費が増加するには、国民の購買力の向上が不可欠であり、それは国民の所得が増えることで生じます。つまり、インフレになるということは、同時に人々の所得が増えているはずなのです。そして消費が増えるために、人々の生活は豊かになるのです。これは「良いインフレ」です。この場合、インフレは好景気と同時に生じます。

逆に言えば、なぜ今の日本がいつまで経ってもインフレターゲットを達成できないかと言えば、それは「国民の所得がちっとも増えていない」からです。そのため消費が増えず、結果としてインフレにならないのです。ですからインフレ目標を達成するには、国民におカネを給付する政策が効果的だと考えられるのです。

では、なぜ多くの人が「インフレになると生活が圧迫される」と信じているのでしょうか。それはおそらく、オイルショックのイメージが人々の意識を支配しているためだと思われます。しかしオイルショックは単なるインフレではなく、スタグフレーションです。これは普通のインフレとは大きく異なります。

スタグフレーションは物価の上昇(インフレ)と不況が同時に起きる状態を指します。これはオイルショックのように、生活に必要不可欠な輸入品が値上がりすることで生じます。スタグフレーションでは、人々の所得が増えることなく、物価だけが上昇しますので、人々の生活が貧しくなります。

オイルショックのように、供給もとの生産量が減ってしまうと、どうすることもできません。どんな景気対策も効果がないのです。基本的にはガマンするしかない、せいぜい、貧しい人の生活必需品が不足することのないよう、再分配政策を強化する程度でしょう。スタグフレーションはそもそもモノが不足する状態になるため、物価を安定化させることは、とても難しくなります。

こうしたスタグフレーションを「インフレだ」と思っている人は多いと思いますが、スタグフレーションとインフレはまったく別物と理解すべきでしょう。スタグフレーションはモノの供給が減少するために物価の上昇と不況が同時に起きますが、インフレはモノの供給以上に需要が伸びるので、物価の上昇と好景気が同時に起こります。

ところで、輸入品について考えると、為替相場の変動によって輸入品の価格が上昇することもあります。つまり円安になると、為替の関係で輸入品が値上がりしてしまうのです。では、この場合はスタグフレーションになるのでしょうか?

例えば、国民におカネを給付金をどんどん支給すると、円の通貨発行残高が増加しますので、為替市場では円安になり、輸入品の価格が上昇してインフレになるかも知れません。しかし、国民におカネが給付されているのですから、負担が増えるどころか、おそらく国民の購買力が増加して、消費が拡大し、景気が良くなると思われます。

また、円安になると日本の輸出競争力が高まるため、輸出が活発化し、これが企業利益を押し上げて、賃金が上昇しますから、景気が良くなります。つまり、国民におカネを給付すると、インフレにはなるものの、同時に景気が良くなるため、スタグフレーションとはまったく違った局面になるでしょう。

ですから、インフレ・インフレと言って、昔のオイルショックのような不況を心配する必要はありません。インフレになるということは、所得が増えることを意味します。天変地異や大恐慌でも生じない限り、所得が増えずにインフレだけ生じる心配をする必要はありません。

最も重要な点は、供給される財(モノやサービス)の量が増加することであり、それが国民にきちんと行き渡るのであれば、物価が上がろうと下がろうと、国民は豊かになるのです。本質的に物価と豊かさは無関係なのです。