2017年8月30日水曜日

貨幣経済の負の側面とBI

今年は東北地方の長雨で冷害が心配です。貨幣経済(交換経済)の負の側面として、ある産業における生産の停滞が社会全体に連鎖的な不況をもたらす点があります。

今日における経済システムは交換経済であり、それぞれの生産を担う人々が生産物を互いに交換することで、社会全体へ財(モノやサービス)の分配が行われます。その仲介が貨幣であるため、貨幣経済の形になっています。

交換経済の負の側面は、ある生産者が何らかの原因によって財の生産ができなくなると、交換不能となり、経済全体に悪影響が及ぶことです。

少々極端に考えてみます。例えば、農家、漁師、酪農家があって、それぞれ90の食料、魚、肉を生産していたとします。それぞれが互いの生産物を60交換することで、農家、漁師、酪農家はそれぞれ食料、魚、肉を30ずつ確保しています。

ここで、何らかの原因(災害など)で農家の生産が半分の45に減ってしまうとどうなるか。交換経済では、農家の食料45のうち、30が交換に使われ、漁師、酪農家とはそれぞれに15の魚、15の肉のみが交換されます。その結果、漁師や酪農家はそれぞれ15の魚や肉が売れ残ってしまうことになります。これは腐って捨てられてしまいます。もったいないですね。

こうして交換経済は、生産の減少が連鎖的に他の産業の生産の減少をもたらすリスクがあります。一方、もし交換経済ではなく、分配経済ならどうでしょう。漁師や服屋の生産した90の財は余すことなくそれぞれに分配され、捨てられることはありません。

これは物々交換で考えた場合ですが、貨幣経済においても貨幣が交換の仲介を行ってるため、ほとんど同じ状況が生まれると考えられます。つまり、ある産業、ある企業における生産の減少が社会経済全体に波及して売れ残りを増やし、景気を悪化させます。客観的に考えると、実に非効率的な現象です。

こうした現象に対しては、貨幣を貯蓄することによる緩衝作用によって軽減できるわけですが(貯蓄および保険)、その程度はあまりにも低いと思われます。なぜなら、いま世の中に膨大にある貯蓄を大量に保有している人は、上記のような主体とはほとんど無関係だからです(貯蓄の偏在)。

そうした中で、ベーシックインカムのような通貨循環システムをあらかじめ経済に組み込んでおくことは、交換経済の負の側面を軽減する作用があると思われるのです。これは物々交換の経済では難しい、貨幣の働きをうまく利用した方法だと思います。

例えばベーシックインカムのような通貨循環によって、常に農家の所得が一定以上あれば、仮に農家が極端な不作に陥った場合でも農家の購買力は維持され、他の産業から財を購入することができます。つまり、分配経済に近い利点を得て、他の産業における売れ残りを防ぎ、社会として生産された財を無駄なく利用できすわけです。もちろん売り上げの減少も最小に抑えられますから、GDPへの悪影響も軽減されます。

こうした通貨循環において、投入する通貨の財源(川上)をどのように設計するかは、システムとしていろいろ検討する必要はあるでしょう。循環する通貨は、必ずどこかに溜まり、よどむ宿命にあります。

ベーシックインカムの一つの効果として、災害などによる連鎖不況の防止効果をあげられるかも知れません。