2017年8月1日火曜日

残業代ゼロと社会の生産性

新聞マスコミは残業代をゼロにして生産性を向上すべきといいます。確かに残業代をゼロにすれば企業の生産性は高まりますが、それで必ずしも社会全体の生産性が高まるとは限りません。

(じいちゃん)
前回説明したことは、残業代をゼロにすれば確かに企業の生産性は高まるが、それは必ずしも仕事の効率が高まることではないし、人々の賃金を下げるだけに終わるリスクもあるということじゃった。ところで残業代をゼロにすれば企業の生産性は高まるが、そのとき、社会全体としての生産性はどうなるじゃろう。

(ねこ)
企業の生産性が高まれば、社会の生産性も高まるんじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)
多くの人はそう思うようじゃが、話はそう簡単ではない。残業代をゼロにするとどうなるか、企業と社会で考えてみよう。

企業では、残業代をゼロにすれば賃金カットと同じじゃから、賃金コストが低下することで生産性は向上する。これは前回説明したとおりじゃ。

社会では、残業代がゼロになると給料が減るわけじゃから、国民全体としての総所得は減ってしまう。すると国民の総購買力も低下して消費が抑制されてしまう。消費が減ると企業は生産を縮小するから総生産は減少し、経済は縮小へ向かう。つまり残業代をゼロにすると、社会全体でみれば生産性は逆に低下するリスクがあるんじゃ。

(ねこ)
うみゃ~変だにゃ、同じ生産性でもなんで違う結果になるのにゃ。

(じいちゃん)
企業の生産性と社会全体の生産性は立場が大きく違うからじゃよ。企業の生産性は株主利益の立場から、社会の生産性は国民全体の利益の立場からみた見方なんじゃ。企業の生産性は前回説明したように、次の関係式がある。

企業の生産性=付加価値の生産量÷従業員数

企業の生産性とは、従業員1人当たりの生み出す付加価値のことじゃ。じゃから、より少ない従業員数で生産するほど生産性は向上する。つまり、生産量を減らさないようにしながら、従業員を1人でも多く首にすればそれだけ生産性が高まる(=利益が出る)ことを意味する。じゃから企業は常に余剰労働力の排除(リストラ)を目指しておる。これは企業が悪だからではなく、資本主義とはそういうシステムだからなんじゃよ。

(ねこ)
必然的に失業者を生むシステムなんだにゃ、だから自由放任していると、どんどん失業が増えるんだにゃ。

(じいちゃん)
次に、社会全体の生産性の式は次のように考えられる。

社会の生産性=付加価値の総生産量÷国民の人口

つまり国民1人当たりの生み出す付加価値のことじゃ。企業は余剰になった従業員を首にして生産性を高める。しかし社会は企業とは違って余剰労働力を排除して生産性を高めることはできない。そんなことをすれば、失業者を国外追放したり殺処分しなければならなくなる。企業がいくらリストラして生産性を高めても、社会全体でみれば人口は同じままなので、生産性はまったく上昇しないんじゃよ。従って企業の生産性を高めるだけでは、社会にとって無意味な場合もある。

生産性の式は「社会の生産性=付加価値の総生産量÷国民の人口」なので、もし人口が変わらないなら、生産性を高めるには生産される付加価値の総量を増やす必要があるんじゃ。つまり、より多くの商品が生産されて売れる(分配される)ようになれば生産性が高まる。それはつまり国民1人当たりの生産と消費が増えることであり、国民が豊かになることを意味するんじゃな。

(ねこ)
なるほどにゃ。社会の生産性を高めるのは「総生産量を増やす」しかないんだにゃ。

(じいちゃん)
その通りじゃ、そして総生産量が増えてもそれが売れ残ったのでは、企業はやがて生産を縮小してしまう。じゃから総生産量を増やしつつ、総消費量も増やさねばならんのじゃよ。じゃからこそ、国民におカネを配って消費を刺激するヘリコプターマネーなどが有効なんじゃよ。

社会の生産性は総生産と総消費によって決まる。

(ねこ)
なるほどにゃ、それじゃあ仕事の効率なんか関係ないのかにゃ。

(じいちゃん)
そうではない。仕事の効率を高めると、国民一人ひとりが生み出す時間当たりの付加価値の量が増える。じゃから社会全体として生産されるモノやサービスの量も増えるから、生産性は高まる。じゃから仕事の効率を高めることは大切じゃ。ただしそれだけでは社会の生産性は向上しないという点が重要なんじゃよ。おカネを世の中にどんどん回して、生産した商品を国民全体に行き渡らせなければ、社会の生産性は向上しない。

(ねこ)
生産性はややこしい考え方だにゃ。

(じいちゃん)
そうなんじゃよ。よくよく考えてみると、生産性はかなりややこしいんじゃ。それを忘れて単純に新聞マスコミの「生産性ガー」記事に振り回されると、国民だけが損してしまうリスクもある。基本的にマスコミの記事は疑ってかかることが必要なんじゃな。

まあ、新聞マスコミへの批判はさておき、生産性と言っても、企業の生産性はあくまで株主利益の視点なんじゃ。国民庶民にとって重要なのは「社会の生産性」じゃ。より多くの付加価値を生産し、人々に広く行き渡らせることが社会の生産性を高め、日本を豊かにするのじゃよ。

~本編サイトと同時掲載