2020年8月24日月曜日

コロナ経済危機の真相とは?第8回

 ますます望まれる「政府の借金増加」

 このように、企業においても家計においても、貯蓄は危機に対する緩衝材(保険のようなもの)として働きますので、経済の安定化のためには貯蓄を増やす必要があるわけですが、貯蓄を増やすためには、そもそも「おカネ」が必要です。世の中のおカネの量が少なければ、企業も家計も、貯蓄を増やせるはずがありません。では、おカネはどうすれば増えるのでしょうか?

 残念ながら現代の社会では、おカネの供給(発行と流通)について国民が十分な知識を持っているとは言えません。大多数の国民は「おカネは日銀が発行する」と考えていますが、それは間違いではないにしろ、その程度の知識では、ほとんど何も知らないに等しいと言えます。実際のところ、おカネの大部分は日銀ではなく民間銀行(市中銀行)が発行しています。

 ところで、おカネはバランスシートという会計のシステム、つまり帳簿によって管理され、帳簿によって生み出されます。いくら輪転機を回して紙幣を印刷しても、帳簿に記載されなければ意味をなさないのです。つまり、おカネとは帳簿ありきです。そして、帳簿を操作することでおカネを生み出すことができるのは、「銀行(日本銀行および民間銀行)」です。日本銀行は現金を発行し、民間銀行は預金を発行します。現金も預金も、どちらもおカネとして機能します。ですから、世の中のおカネを増やすには、日本銀行または民間銀行がおカネを発行すればよいわけです。

 そして、銀行がある一定額のおカネを発行するためには、誰かが銀行から同じ額の借金をしなければなりません。例えば100万円のおかねを発行するには、誰かが銀行から100万円の借金をしなければならないのです。誰かが新たに銀行から借金をすることで世の中のおカネが増える、これが今日の金融システムの基本である「信用創造」になります。日本銀行あるいは民間銀行のどちらから借金しても、おカネが発行されます。ただし、日本銀行は政府や民間銀行におカネを貸しますが、一般の家計や企業におカネは貸しません。一般の家計や企業がおカネを借りるのは、もっぱら民間銀行からになります。民間銀行から家計や企業がおカネを借りた場合は「預金通貨」が新たに発行され、家計や企業の口座に振り込まれます。

 もし仮に、誰も銀行から借金をしなければ、おカネは一円も発行されません(正確に言えば、10円や100円のような政府通貨を除く)。だから世の中のおカネを増やそうとすれば、必ず誰かが銀行から借金を負わねばなりません。では、いったい誰が借金をすれば良いのでしょうか?企業や家計がおカネを貯蓄するのであれば、企業や家計とは別の主体が借金をしなければならないわけです。となると、政府しかありません。政府が借金することでおカネが増え、その増えた分だけ企業や家計が貯蓄を増やすことができます。実際には政府は「借金(=借り入れ)」という形態ではなく、国債(=債権)の販売によって、世の中におカネを供給することになります。従って、企業や家計が貯蓄を増やすために、政府が借金を増やすことは極めて当然であり、政府の借金なくして企業や家計の貯蓄増はあり得ないのです。逆に言えば、財政再建するために政府が借金を減らしてしまえば、つまり、現在、1000兆円をこえるという政府の借金を減らしてしまえば、その分だけ企業や家計の貯蓄は消えてなくなります。これは今日の金融の仕組みから言って常識であり、誰も否定することはできない事実です。

 もちろん、国債を大量に発行すると、政府が国債の保有者に支払う国債金利の総額が膨れ上がる恐れがあります。その支払い金利は国民の税金として国民負担を増加させますので、国債の発行を増やす場合は、金利負担を軽減する必要があります。それが日本銀行による国債の買い入れになります。なぜそれが国民の金利負担を軽減することになるのでしょうか?

 日本銀行が国債を保有した場合、政府は日銀に国債の金利を支払わねばなりません。日銀に支払われた金利は日銀の利益になりますが、日銀の利益は国の財産ですので、国庫に納められます。つまり政府に戻ってきます。ですから、日銀が保有する国債については、事実上、金利負担は無いと言えます。今日、金融緩和政策の一環として、日銀が既発国債を市場から大規模に買い入れる「量的緩和政策」を実施しておりますが、これを継続するとともに、必要に応じて、日銀が政府から国債を直接に買い入れるようにすれば良いでしょう。それが、世の中のおカネを増やす方法です。

 このように、企業や家計の貯蓄を増やし、危機に対して安定的な経済を作るには、金融の基本的な仕組みから考えると、政府の借金は減らすどころか、ますます増やさねばならないのです。

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