2020年8月21日金曜日

コロナ経済危機の真相とは?第5回

 完全雇用を前提にする社会は脆弱

 コロナ感染症対策を徹底できないことの原因は、結局のところ「失業者を増やすわけにはいかないから」です。仮に「有っても無くても生活に支障のない産業」であったとしても、活動を止めることはできません。止めれば失業者が溢れてきます。政治家が盛んに「雇用を守る」と繰り返しますが、それは、人々のすべてに仕事があること、つまり完全雇用が求められる社会であることを意味します。そのために、感染症対策を徹底することができないのです。

 この「完全雇用を前提とする社会」は、コロナ感染対策において制度的欠陥を垣間見せているわけですが、今後は間違いなく、もっと大きな課題を我々に突きつけてくるでしょう。科学技術が進化し、人工知能や完全自動生産工場が普及するにつれて、完全雇用という制度的欠陥は、より深刻なものになります。つまり、「人工知能や完全自動生産工場が本格的に導入され、大部分の人々が失業する時代になったら、どうするのか?」ということです。

 例えば、感染拡大防止に有効な手段として「無人化」が挙げられています。感染症は人から人へ感染しますので、様々な社会活動・経済活動において、人間のかかわる部分を減らすことが有効です。また、人間が関わることなくモノやサービスが生産できるようになれば、仮に感染予防のために人間が自宅に引きこもってしまった場合でも、モノやサービスが自動的に生産されますので、供給不足になる心配がありません。幸いなことに、人工知能や完全自動生産工場の技術が急速に進歩しており、人間が関わることなく、自動的に多くのモノやサービスを供給できるようになる可能性が十分に高いと思われます。

 ところが、こうした無人化は別の問題を引き起こします。産業が無人化すると、大量の失業者が発生するのです。すると、失業者を雇用するために、新たな産業を興さねばならなくなります。その産業は当然ですが、人間が関わる仕事になるはずです。人間が関われなければ、雇用が生まれませんので。すると、ある産業を無人化したところで、新たに有人の産業が生まれるわけです。その産業はまさに「あれば便利だけれど、無くてもなんとかなる産業」であり、なおかつ、いざパンデミックになった際には、自粛対象にされてしまうような感染ハイリスクの産業なのです。このように、完全雇用に固執する限り、永遠に感染症に弱い社会のままである、というまさにナンセンスなことが起こります。

 今回のコロナウィルス災害では、経済活動の制限・自粛によって仕事を失う人が大量に出てきたために大問題になっているわけですが、これがコロナウィルスではなく、人工知能や完全自動生産工場が普及しても、同じように多くの人が仕事を失うわけです。コロナウィルスの場合は、感染が終息すれば失われた仕事は元に戻るわけですが、人工知能や自動生産工場の場合は、失われた仕事は二度と戻りません。はたして政府はどうするつもりなのでしょうか?

 これまでの時代の常識で考えれば、失業を減らすために「あれば便利だけれど、無くてもなんとかなる産業」をさらに興す必要があります。しかし、そもそも「有っても無くても生活に支障がない」のですから、そうしたモノは、本質的には需要が少ないのです。それを売り込むために、人々の欲求を掻き立て、購買欲を引き出す宣伝広告がマスコミによって流され、人為的にファッションなどの流行を仕掛けて、消費を拡大させることになります。人々の欲望を刺激して、需要を喚起する必要があるわけです。

 こうなると、健康で豊かな社会生活を維持するために生産活動を行っている、というより、必要あろうが無かろうが、とにかく失業者を増やさないために、新たな産業を作り出すことが生産活動の目的になってきます。人工知能や自動生産機械が進化して、人々が失業するたびに、それを延々と繰り返すわけです。おかしいと思わないのでしょうか?しかも、そんなことを永遠に繰り返すことは可能なのでしょうか?無限に生産と消費を増やし続ければ、資源は枯渇してしまわないのでしょうか?

 そもそも、何のために科学技術を研究して、生産の自動化を推し進めるのでしょうか? 人々を楽にするためです。人間の労力を減らして、楽に財(モノやサービス)を生産するためです。ですから、本来であれば、科学技術が進化して生産性が向上すれば、人々は働かなくても良くなるはずです。ところが現代社会では、「働かないと所得が得られない仕組み」になっていますので、このままだと、どれほど科学技術が進化して、自動生産ができる社会になっても、人々は決して労働から解放されることはなく、永遠に働き続けなければなりません。

 しかも、生産の自動化が進んで人手がいらない社会になれば、労働市場では労働力が常に供給過剰になります。人手が余りまくります。そうなると、賃金はどんどん低下してしまいます。つまり、人工知能や完全自動生産工場の進化に伴い、世の中から仕事がどんどん消えてなくなり、あったとしても、非常に安い賃金しか貰えない社会になるのです。つまり未来社会はブラック企業ばかりが跋扈する社会になります。

 なぜ、こうなってしまうのか?理由は極めて簡単です。完全雇用を前提とした社会だからです。「すべての人が労働する社会」を前提としているからです。「働かなければ一円の所得も得られない社会」だからです。そのため、失業者に必ず仕事を与える必要があり、社会にとって必要であろうとなかろうと、とにかく仕事を作り出して雇用しなければならないわけです。

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