2017年10月10日火曜日

ヘリマネで円安になっても大丈夫な理由

ヘリコプターマネー(通貨を発行して国民に給付する)政策を行うと円安になり、輸入物価が上昇して生活が苦しくなるのではないか、と心配する声があります。確かに円通貨を発行すれば円安になりますが、それで生活が苦しくなる心配はありません。所得がそれ以上に増える可能性が高いからです。

2017.10.10

(ねこ)
景気対策としておカネを発行して国民に配る「ヘリコプターマネー」はいい政策だと思うにゃ。でもおカネを発行すると為替市場で円安になり、輸入品の価格が値上がりするから生活が苦しくなると心配する人がいるのにゃ。大丈夫なのかにゃあ。

(じいちゃん)
大丈夫じゃ、しかしこれを説明するのはいささか困難じゃ。つまり一言で片付けられるほど単純ではないからなんじゃ。だから話は長くなってしまう。さて、円安の問題よりもまず最初に頭に入れて欲しいことが二つある。

①国民の購買力は物価と所得の双方で決まる。
②日本の輸入力(購買力)は輸出競争力で決まる。

(ねこ)
ふ~ん、どういうことかにゃ。

(じいちゃん)
①国民の購買力は物価と所得の双方で決まる。

仮に物価が上昇しても、同時に国民の所得が増えれば国民の購買力は逆に向上し、人々の生活が豊かになることは十分にある。その実例がバブル崩壊前までの日本経済じゃ。例えば高度成長期の日本はインフレ率が5%以上もあった。しかしその20年間に賃金が7倍にも増えたので、インフレはまるで問題にならなかったんじゃ。オイルショックというインフレ騒ぎもあったが、あれは中東戦争などによって生じたもので、極めて短期間に終わった事故のようなものじゃ。じゃから、仮に物価が上がっても所得が増えれば国民の購買力は維持あるいは向上する。

②日本の輸入力(購買力)は輸出競争力で決まる。

貿易はおカネを利用して行われる。しかし実際にはモノがやり取りされている。だから基本は物々交換なんじゃ。だからその国の製品の競争力が重要になってくる。つまり輸出競争力の高い製品をたくさん生産できる国は、そのぶんだけ外国からたくさんの商品を輸入することができる。それが基本じゃ。そしておカネはあくまでもその交換の仲介をしているに過ぎない。だから大きく見れば、日本の輸出競争力が高ければ、日本は高い購買力を持つことになり、より多くの商品を輸入できる。つまり貧しくなることはない。

貿易はおカネが絡んでくるため非常に複雑じゃが、この二つを頭に入れておけば、そんなに惑わされることはないと思うのじゃ。

(ねこ)
ふ~ん、それで、円を発行して国民に配ると円安になるにゃ。すると輸入品の物価が上がるけど、それでどうなるの?

(じいちゃん)
まずヘリコプターマネーを実施するということは、国民におカネを配ることじゃ。じゃからそれだけで国民の所得は向上する。仮に毎月1万円のヘリマネを実施するとすれば年間12万円の給付となる。たとえば家族(4人)だと支給額が年間48万円で、年間消費400万円の家計だとすると12%の所得向上に匹敵する。もし物価が12%値上がれば相殺されてしまうが、それほど物価が上昇するとは思われない。毎月1万円のヘリマネを実施すると年間15兆円のおカネが増えるわけだが、これは日本の現預金およそ900兆円のわずか1.6%に過ぎない。

為替相場は両国間の通貨供給量によって決まるとするソロスチャートと呼ばれる考え方がある。これは投機で有名なジョージ・ソロス氏の考案したチャートなんじゃが、短期的に誤差はあるものの、長期的にはよく一致しているという。ドルと円であれば、ドルと円のおカネの量の比率で交換比率、つまり為替相場が決まるのというのじゃが、考えてみれば当たり前じゃ。

すると、ドルと円の為替市場で、円の総量が1.6%増えただけで為替が12%も動くとは考えにくい。しかも、影響を受けるのはあくまでも輸入品・輸入資源に関わる製品だけだから、そのほかに日本国内で生産される様々な商品の相場と合算した結果としては、物価全体の変動は為替の変動幅よりも小さくなる。

よって、物価の上昇幅はヘリマネで国民に給付されるおカネの金額を上回ることはないと思うのじゃ。

(ねこ)
ふにゃにゃ~ややこしいのにゃ。

(じいちゃん)
そうなんじゃ、非常にややこしい。おまけに話はそれで終わらない。もし円安になったら貿易はどうなるじゃろうか。円安になると日本の国際競争力がどんどん高くなる。すると日本の製品が外国でバンバン売れるようになるから、貿易黒字が大量に出る。輸出企業の業績が伸びれば日本の景気は良くなり、当然ながら人々の賃金が上昇して所得は向上する。最初は輸出産業だけが儲かるが、やがて国内全体に波及することになる。これはバブル崩壊前に日本が貿易を急速に伸ばしたことで国民所得もどんどん増えたことを思えば容易に理解できるはずじゃ。また円安になれば海外へ移転した企業の国内回帰も考えられる。

また貿易黒字が大量に出ると、為替市場では円買いが行われて円高圧力が生じてくる。これによって、円安にはある程度の歯止めがかかる。ゆえに貿易黒字による円買い実需がストッパーとなって、円安が過度に進むことは防がれると思うのじゃ。

よって、円安による輸出拡大によって景気が活性化し、国民所得が向上することで円安による輸入品の価格上昇の影響は吸収できると思うのじゃ。

(ねこ)
ややこしいにゃ~、でも所得が増えればインフレなんか気にしなくても大丈夫なんだということは、わかるのにゃ。インフレを心配するよりも、むしろ国民所得を向上させる方法を考えた方がいいにゃ。

(じいちゃん)
まったくじゃな。じゃが話はまだおわらん。円を発行すれば円の金利が低下するので円を借りやすくなる。この円を借りて為替市場で売り、ドルに換えて海外に投資するいわゆる「円キャリー」が活発化する可能性もある。そうなると円は為替市場で売られるため、円安が加速する恐れはあると思う。しかし一方でベーシックインカムによって内需が拡大すると日本の経済が成長するため、投資機会を提供することになる。日本国内に投資する場合は円通貨が必要になるから、為替市場では円を買う動きが出て、円安は抑制される。

そして、一番ややこしいのが投機じゃ。これまでも世界で為替がおかしな動きをしてきたのは、マネーゲーム、為替投機に原因がある。短期的に投機の動きを予測することはほぼ不可能なんじゃ。何しろゲームじゃからな。もし投機の動きを正確に予測できるヤツが居れば、たちどころに大富豪になれる。だから投機がどれほど為替に影響を与えるかわからんのじゃ。

リスクとしては、円の売り浴びせじゃろう。これに応じて日銀が中途半端に円買い介入すれば利ザヤを与えることになる。しかし日本の通貨量は膨大じゃから、おいそれと売り浴びせはできないじゃろう。またこうした空売りは、売るための資金を借り入れ(あるいはレバレッジ)によって調達することで拡大する。マネーゲームにカネを貸さないように規制したり、あるいは通貨制度を改革することでかなり抑制できると思う。

おカネは貿易のような実体経済とは違って、利ザヤを抜くために複雑な動きをするため、為替がどの程度変動するかを事前に予測することは難しい。

(ねこ)
おカネは本当にややこしいのです。本来は単純なはずの経済を複雑でわかりにくくしているのです。

(じいちゃん)
まあ、やむを得ないところじゃな。じゃが経済の基本はあくまでも財(モノやサービス)を生産して交換することにある。じゃから先に説明した①と②の考え方からすれば、心配する必要はないと思うのじゃ。物価を気にするよりも、国際競争力の高い製品を生産し、国民の所得を増やすことを考えた方が結果として国民は豊かになるはずじゃ。

とはいえ、頭でそう理解しても不安はあるじゃろう。そこで予防策を講じておくことが必要だと思う。その予防線はインフレターゲット政策じゃ。

インフレターゲットとして、例えば3%を設定するとしよう。そしてヘリマネを毎月1万円の支給からスタートする。そして物価の動向を慎重に見ながら、可能であれば次の年に毎月2万円に増やす。もし3%を超えそうなら次の年の増額は取りやめて2万円でしばらく様子を見る、という具合じゃ。ただし景気が良くなるとインフレになるのは当然なので、物価ばかりに気を取られてはまずい。国民の所得が増加している可能性が高いからだ。

国民の豊かさは物価変動を差し引いた実質購買力、あるいは実質所得によって左右されるので、これが伸びているうちはインフレを心配する必要はない。それこそ、高度成長期のように5%のインフレ率でも給料がどんどん増えれば問題ないんじゃ。

じゃから、インフレターゲットを設定してそれを超えないように、国民の実質所得にも気を配りながらヘリマネを行えばそれほど心配する必要はない。仮にインフレの抑制が厳しいようなら消費税を増税して消費を抑制することでインフレを抑えることもできる。それを財源として低所得者への再分配を強化する。

(ねこ)
にゃるほど、やり方には工夫が必要なんだにゃ。ただ漫然とカネを刷って撒けばいいわけじゃないにゃ。

(じいちゃん)
ほっほっほ、そんなことしたら大変なことになるぞ。本当におカネはわかりにくいし、これが誤解や混乱の原因になっておる。とはいえ貨幣経済を放棄するわけにもいかん。しかし経済の本質が財の生産と交換にあることをしっかり頭に描いておくなら、漠然としながらも、正しい方向性は見えてくるはずなのじゃ。

(サイト記事として同時掲載)