2018年5月6日日曜日

ベーシックインカムの財源と通貨循環

2018.5.5

財源を考える際に重要な点は「通貨循環」です。おカネは経済を循環していますから、出て行ったおカネは再び戻り、また出て行く。ですから循環を考えずに歳入と歳出だけで財源を考えることは、ほとんど無意味だとわかります。

(じいちゃん)
今日はベーシックインカムにおける世の中のおカネの循環について考えてみたいのじゃ。

(ねこ)
なんでそんなこと考えるのかにゃ。

(じいちゃん)
世の中の経済は、多くの人々や企業が、生産した財(モノやサービス)を交換することで成り立って居るが、その交換の媒介を担うのがおカネじゃ。人々や企業の間をおカネが循環することで経済が成り立っており、もしその循環が滞ったりすると、たちまち経済が不況になってしまうんじゃ。じゃから、経済にとっておカネの循環が極めて大切であり、ベーシックインカムのような経済の仕組みも、おカネの循環から理解しておく必要があると思うからなんじゃよ。

(ねこ)
ふにゃ、おかねの循環がうまく行かないと、ベーシックインカムもうまく行かないんだにゃ。

(じいちゃん)
その通りじゃ。さて、まずは人間の労働が関係することですべての財が生産されている今日の経済について考えてみよう(図1-A)。なお図は極めて簡略化しており、金額は仕入れや経費のようなもの、あるいは設備投資などはすべて差し引いた後の額(付加価値)と思って欲しいのじゃ。また、金額の数値はあくまでもシミュレーションのための仮の数字であることは言うまでもないのじゃ。



財は生産者である企業で生産される。そして企業は労働の対価として労働者に対して、例えば①賃金100を支払う。労働者は同時に消費者でもあり、家計と呼ばれる。②家計は得られた賃金100を企業に支払い、③財100を得ることができる。企業に支払われた100のおカネは、再び賃金として家計に支払われる原資になる。このように、おカネが生産者(企業)と消費者(家計)をぐるぐると循環することで経済が成り立っておるわけじゃな。

次に、テクノロジーが飛躍的な進化を遂げ、人工知能やロボット、無人工場などですべての財が生産されるようになると、人間は働く必要がなくなり、いわばすべての人が失業状態になると考えられる。もちろんこれは最終的な話じゃが、仮にそうなったら、おカネはどのように循環するのじゃろうか(図1-B)。



すべての仕事を機械が行なうようになると、すべての人は失業状態となってしまう。それでは誰も企業から財を買うことができなくなってしまう。そこでまず①通貨100を発行する。それを②政府がベーシックインカムとして家計に100支給するんじゃ。家計は③100のおカネを代金として支払い、④100の財を得ることができる。⑤企業が代金として受け取った100のおカネは税金として政府に支払われるんじゃ。政府に支払われた100のおカネで、政府は100のおカネをベーシックインカムとして再び家計に支給することができる。

(ねこ)
ふにゃ、売り上げ利益をみんな税金で取られたら企業は潰れないのかにゃ。

(じいちゃん)
それは大丈夫なんじゃ、というのも、最初に100のおカネを発行しておるからじゃ。このおカネはそもそも政府がベーシックインカムを回すために発行したおカネであって、それによって企業の売り上げが生じておる。じゃから企業から政府がそのおカネを回収したとしても、企業には何の問題もない。回収しなければベーシックインカムを継続するためにおカネを発行し続ける必要があるし、一方で、毎年政府が発行する通貨を企業がどんどん貯め込み続ける結果になる。

またその逆に、もし仮に最初に100のおカネを発行せず、初めから税金として100のおカネを企業から回収すれば、企業の資産が100だけ減らされることになるじゃろう。これでは企業は潰れてしまう。

最初に、ベーシックインカムとして循環するためのおカネを発行し、これを家計に支給するところからスタートすれば、仮に税金を課されても経済に大きな悪影響を及ぼす恐れはないと思うのじゃ。

(ねこ)
なるほど、最初におカネを発行することがポイントなんだにゃあ。

(じいちゃん)
さて、それでは、人間の仕事が完全に機械に置き換わってしまう前の場合を考えてみよう。たとえば、50%の仕事が機械に置き換わるとすれば、およそ50%の人が失業状態になるわけじゃから、企業から家計に支払われる賃金も50%にへると予想できる。ならば、残りの50%のおカネをベーシックインカムとして支給する必要があると思うのじゃ。それを(図1-C)にしてみた。



この場合も、①最初にベーシックインカムとして支給する50のおカネを発行する。そして②家計にベーシックインカムとして50のおカネを支給するんじゃ。一方、50%の人は仕事をしておるから、③家計は賃金として50のおカネを受け取る。すると家計はベーシックインカムと賃金を合わせて100のおカネを手にすることになる。④家計は代金として企業に100のおカネを支払い、⑤100の財を得ることができる。企業は100のおカネを受け取り、⑥そのうち50のおカネを税金として政府に納め、残り50は次回に労働者へ支払う賃金の原資となるわけじゃ。そして、政府は企業から回収したおカネを再びベーシックインカムとして家計へ支給できる。

以上が、ベーシックインカムの基本的な通貨循環だとワシは考えておるのじゃよ。なお、ここでは株主へ支払われる利潤は省略しておる点に留意いただきたい。また、いくら政府がベーシックインカムのために発行したおカネだとはいえ、税によってすべて政府に回収されてしまうと、企業のモチベーションが下がるとの話もあるじゃろうから、すべて回収はせずに企業の内部留保などとして蓄えさせ、その分だけ通貨を少し多めに発行するという方法もアリじゃと思う。

(ねこ)
そうにゃ、政府が発行したおカネを企業がすべて貯め込むのは問題だけど、逆にすべて回収するのも酷なのですにゃ。すべて回収するんじゃなくて、企業の成績に応じて企業におカネが残る仕組みも必要なんだにゃ。バランスが大切にゃ。

(じいちゃん)
さて、もう少し具体的に考えてみよう。というのも、企業からベーシックインカムのおカネを回収する際に税制を利用するにしても、税制にはいろいろある。そこで、二つのケースを考えてみたいと思うのじゃ。一つはストック(資産)に課税する方式、もう一つはフロー(利益)に課税する方法じゃ。前者は資産課税、後者は消費税を考えてみよう。

最初は資産課税じゃ。これは内部留保、あるいは剰余金と呼ばれるいわば「企業の貯蓄」に課税する方式じゃな。人間の仕事の50%が機械に置き換わって、50%の人が失業状態にある場合を考える(図2-A)。



まず①通貨を50発行し、②ベーシックインカムとして家計に50を支給する。③家計には企業から50の賃金が支払われるので、家計の所得は合計で100となる。そして④代金として100を払うことで⑤100の財を手に入れる。企業は売り上げとして受け取った100のうち、50を次回の賃金の支払いに使うわけじゃが、残りは⑥企業の利益として貯め込まれることになる。これが剰余金じゃな。普通は企業の利益から株主に配当が支払われるのじゃが、ここでは支払わないものとする。すると企業の剰余金はどんどん増え続けることになるので、⑦これを資産課税として政府が50回収という寸法じゃよ。これがストックに課税する一つの方法じゃ。

ワシとしてはこれが良いと思っておるのじゃが、「内部留保に課税するとはけしからん」と経団連などが大騒ぎするかも知れないのう。おまけに「何が何でも消費税で」という人がいるので、消費税で考えてみよう。また、「働く人からカネを取って働かない人に配るのは反対」という人も多いので、なら消費税という形で消費者全てが広く負担するかたちにすることも一つの方法かも知れない。消費税を財源とすると、次のようになると思われるのじゃ。



まず①通貨を50発行し、②ベーシックインカムとして家計に50を支給する。③家計には企業から50の賃金が支払われるので、家計の所得は合計で100となる。そして④家計が企業に代金を100支払うわけじゃが、この代金には消費税も含まれておる。ここでは分かり易いように消費税を100%にしてある。すると、支払い100のうち50が消費税になる。⑤家計は100の財を手に入れて、企業は100の代金を受け取るが、このうち50は次回に支払う賃金の原資となり、⑥50は消費税の仮受金なので、これは政府に納めることになる。

この方法であれば、企業から文句を言われる筋合いはない、むしろ経団連は消費税を増税したくてウズウズしているほどじゃからのう。だが消費税とは付加価値税でもあるので、企業の付加価値に税を課しているとも言えるんじゃ。付加価値税を増税されて喜ぶ不思議な人たちじゃ。

いずれにせよ、最初にベーシックインカムを行なうためのおカネを発行して供給しておるから、家計にも企業にも大きな負担はないと考えられるのじゃ。つまり、財源が資産課税だろうと消費税だろうと、ベーシックインカムは通貨の発行を先行して行なう必要があると思うのじゃ。

(ねこ)
なるほど、消費税を増税してベーシックインカムを行なう場合でも、通貨を発行し、そのおカネを回すようにすれば、家計や企業に大きな負担を強いることなく運用できるかも知れないにゃ。

(じいちゃん)
ところが「通貨発行などけしからん、ベーシックインカムの財源はあくまで消費税だけ、しかも財政再建しろ」という考えの人も居るようじゃ。こういうタイプのベーシックインカムをワシは「緊縮型ベーシックインカム」と呼んでおる。では、消費税を財源とした、緊縮型ベーシックインカムはどうなるか、考えてみよう(図3)。



緊縮型ベーシックインカムの場合は、通貨発行はしない。税収等で通貨を調達して①ベーシックインカムとして20を支給する。おカネを発行しないのだから、当然、支給される額は小さくなる。②家計は企業から賃金50を受け取るが、ベーシックインカムと合わせて所得は70しかない。もし財100を購入しようとすれば、貯蓄を切り崩す必要がある。そこで③家計は貯蓄30を切り崩し、④代金100を企業に支払って、⑤財100を手に入れる。企業に支払われた代金100のうち、50は次回の賃金支払いに、⑥残り50は消費税として政府に納められる。政府は納められた税金のうち⑦仮に30を財政再建に回すとすれば、残りは20となり、これがベーシックインカムの財源となる。

つまり、このサイクルを繰り返すたびに、家計の貯蓄(金融資産)が切り崩され、政府の借金(負債)が減ることになる。家計の貯蓄を財源として財政再建する仕組みなのじゃよ。なにか妙な気がするかも知れんが、金融資産(おかね)は金融負債(借金)によって生じるのが現代の通貨の基本システムじゃから、借金を返済する以上は、誰かの資産(貯蓄)を取り崩さねばならないわけじゃ。

(ねこ)
酷い話しだにゃあ、もし、家計が貯蓄を切り崩さないとどうなるのかにゃ。

(じいちゃん)
家計が貯蓄を切り崩さなければ、財を買うためのおカネが不足する。この場合、ベーシックインカム20と賃金50の合計である70しか収入がない。だから財の売り上げは100から70に減少する。つまりデフレ不況に突入するというわけじゃよ。最悪の場合、家計の貯蓄が減る上に、さらにデフレ不況になる恐れもある。おそらく、財務省がベーシックインカムを主張し始めると、これが起きると思うのじゃ。緊縮型ベーシックインカムには大きな注意が必要なんじゃ。

(ねこ)
ふにゃ、緊縮型ベーシックインカムには気をつけるのですにゃ。

(じいちゃん)
では、消費税によるベーシックインカムについて、もう少し細かく考えてみよう。無職の人はベーシックインカムだけで生活することになる。このばあいの通貨循環はどうなるじゃろうか(図4-A)。



まず①通貨を50発行して、②ベーシックインカム50を支給する。無職者の家計はこの50がすべての所得なので、③企業に50のおカネを支払って、④財50を入手する。この財の量で最低生活が可能であれば、最低生活保障となる。さて消費税が100%ということは、家計が支払った50のうち、25が消費税に該当する。従って企業は受け取った50のうち⑥消費税として25を政府に納付するが、無職者に賃金を支払うことはない。となると、企業には剰余金として25のおカネが貯まることになる(配当金の支払いがない場合)。そうなれば、政府に回収されるおカネは25となり、ベーシックインカム50を支給するには足りなくなる。これを防止するためには、企業の剰余金25を回収する必要があるため、消費税だけではなく⑦資産課税を併用することで剰余金25を回収する。このように考えられるのじゃよ。

(ねこ)
ふ~ん、消費税単独でベーシックインカムを行なうのは難しそうだにゃ。ちなみに働いている人の場合はどうなるのかにゃ。

(じいちゃん)
働いている人の場合はあまり問題なさそうじゃ(図4-B)。



同じような図を何度も説明しておるので、詳細は省くが、この場合は企業に剰余金が貯まり続けることはないと思うのじゃ。

(ねこ)
うにゃ、それじゃあ、ベーシックインカムの財源としては、「資産課税の方法」と「消費税+資産課税の方法」のどっちでも成り立つから、どっちでも構わないのかにゃあ。

(じいちゃん)
「資産課税の方法」と「消費税+資産課税の方法」のどちらでも同じかと言えば、そうとは限らない。これはおカネの循環を単純化したマクロのモデルに過ぎない。人々がそれに沿って合理的に行動するわけではないのじゃ。実際の社会は個々の人々や企業の多様な行動が合成されて方向性が決まる。たとえば消費税を財源とする場合は、いくら最初におカネを発行して配ります、と言ったところで、いきなり消費税が100%だとそれだけで消費者心理が冷え切って、消費が抑制されてしまうかも知れない。おまけに、このモデルでは家計の貯蓄は考慮していない。人間はおカネを貯め込むのが好きらしいので、そうなった場合は家計の貯蓄に課税する方法も検討する必要が出てくる。人間が常に合理的な行動をするなら、誰も苦労はしないじゃろう。

とはいえ、おカネの循環から考えるとスッキリわかりやすいと思う。財源ガーとかシャッキンガーとか、単にそれだけを見て騒ぐ連中のバカバカしさがより明確になる。税と通貨循環の関係も分かるはずじゃ。マクロにおいてはおカネを介して全てが繋がっており、一体のシステムなのじゃ。

じゃがこうした考え方は新聞マスコミには決して出てこないじゃろう。マスコミの意図がバレてしまうからな。マスコミは報道しないことで世論を操作する。もちろん、これはワシが勝手に考えたシミュレーションじゃから完璧なものではない。ミスもあるじゃろ。じゃが、単にプライマリーバランスだの、国の借金だのという話ではなく、こうした通貨循環から経済、あるいはベーシックインカムを考えることの大切さを理解して欲しいと思うのじゃ。

(ホームページにも同時掲載)