2017年7月28日金曜日

残業代ゼロ法案と仕事の生産性

新聞マスコミが「成果による賃金制度を導入し、生産性を向上すべき」と書いています。多くの人は生産性の向上と聞くと「仕事を効率化するから良いこと」と考えます。しかし生産性の向上と仕事の効率は違うのです。

(ねこ)
労働基準法の改正案、いわゆる「残業代ゼロ法案」がまた騒がれ始めたのにゃ。労働時間ではなく成果に基づいて賃金を支払う制度のことにゃ。何時間労働しても、成果が同じなら給料は同じって話だにゃ。成果に基づく賃金制度は新聞マスコミに「生産性が向上する」って書いてあるから、生産性が高まっていいことなのかにゃ。

(じいちゃん)
確かに新聞マスコミには「生産性が高まる」と書いておる。一般の人々は「生産性が高まる」と聞けば良い事じゃと思う人が多いじゃろう。なぜなら「生産性の向上」と聞くと多くの人は短時間の仕事でたくさんのモノやサービスを生産するようになることだと考えるからじゃ。つまり生産性の向上とは、仕事の効率向上(生産効率の向上)のことだと考えておるじゃろう。

(ねこ)
そう思うにゃ。生産性の向上と仕事の効率向上は同じじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)
同じ部分もあるが基本的に別だと考えた方が良いじゃろう。仕事の効率とは「モノやサービスで考えた場合」生産性の向上とは「おカネで考えた場合」と考えることができる。

例えば仕事の効率は時間当たりの生産量として考えることができる。だから短時間に効率的に仕事をこなして生産効率が高まるほど、生み出されるモノやサービスの量が増える。モノやサービスが増えれば社会が豊かになると考えられるじゃろう。生産の時間的な効率という視点じゃ。普通の人は生産性と聞くと、これをイメージする。しかし実際の生産性はどうか。

生産性は計算式に基づいて定義されておる。つまり

(生産性)=(付加価値の生産量)÷(総労働時間)じゃ。

この式だけ見れば、仕事の時間効率を高めると生産性があがると思うじゃろう。しかし、付加価値の生産量も総労働時間も金額で換算されるから、この式は次のように書き換えることができる

(生産性)=(売り上げによる利益)÷(賃金コスト)となる。

売り上げによる利益とは、売り上げ金額から製造原価、販売経費などを引いた金額とする。こうしてみると、生産性から「時間」という視点は消えてしまう。つまり生産性は必ずしも労働時間とは関係がないことがわかるじゃろう。

例えば、景気が良くなって売り上げによる利益が増加すると、それだけで生産性が向上することがわかる。つまり世の中の景気が良くなって商品がバンバン売れるようになると、それだけで生産性は向上するんじゃ。

また逆に、景気が悪くて売り上げがまったく伸びなくても、賃金コストが減少するとそれだけで生産性が向上することがわかる。つまり世の中の景気が悪いままでも、リストラや賃金をカットすると、それだけで企業の生産性は向上するのじゃよ。従って、ある意味では生産性の向上と仕事の効率は関係ないと考えることもできる。

まさに「残業代ゼロ」はこれなんじゃよ。残業代をゼロにすれば、それだけで賃金コストが低下するから、仕事が効率化しようがしまいが生産性は向上する。すると新聞マスコミが「残業代ゼロによって生産性が向上しました」と記事に書き、多くの人は「ああ、仕事の効率が高まったんだね、よかったよかった」と言うわけじゃよ。ばかばかしいのう。

(ねこ)
うみゃ~、知らなかったのにゃ。生産性の向上と仕事の効率向上は同じだと思っていたのにゃ。効率よく仕事すれば生産性が上がると思っていたにゃ。

(じいちゃん)
確かに仕事の効率を向上させると、生産されるモノやサービスの量が増えるから生産性が向上する可能性はある。つまり、たくさん生産された分だけ、たくさん売れれば、売り上げによる利益が増えるから、生産性は向上する。しかし消費者におカネがなければ、いくら作っても売り上げは増えないじゃろう。すると、労働者がどれほど苦労して仕事の効率を向上させても生産性があがらないことになる。

(ねこ)
ん~、それじゃあ仕事の効率を高める意味ないにゃ。

(じいちゃん)
ところがそうでもない。仕事の効率が高まると、同じ量の商品を生産するのに必要な労働者の数が少なくなるんじゃ。そこで企業は労働者を首にして、賃金コストを減らし、生産性を高めることができる。じゃから新聞マスコミの「生産性の向上が必要だ」という話をすんなり受け入れてはいかんのじゃよ。

(ねこ)
ひどいにゃ、ひどいにゃ、労働者がふんだりけったりだにゃ。企業も労働者も得する良い方法はないのかにゃあ。

(じいちゃん)
ある。国民に給付金を支給しつつ仕事の効率化、残業時間の短縮化を行えば良いのじゃ。それがヘリコプターマネーやベーシックインカムと呼ばれる手法じゃ。すべての国民に毎月おカネを支給すれば、国民の購買力が高まる。すると仕事の効率向上によってたくさん作られたモノやサービスは売れ残ることなくすべて売れるじゃろう。すると企業の売り上げが増えるから、仕事の効率だけじゃなく、生産性も向上するんじゃ。仮に残業代が減っても、代わりに給付金をもらえるから所得が減る心配も少なくなる。まさに企業も労働者も得をするんじゃ。

(ねこ)
すごいにゃすごいにゃ。ヘリコプターマネーで国民におカネを配りながら、労働時間の効率化をするべきだにゃ。

(じいちゃん)
仕事の効率を高めるのは良いことじゃし、労働時間が短くなるのも良いことじゃ。問題はそれで労働者の所得が減ってしまう恐れがあることなんじゃ。じゃから政府の勧める「仕事の効率化や時間短縮」に反対するのではなく、代わりにヘリコプターマネーやベーシックインカムを要求すれば良いのじゃ。

ところが、拝金主義の自民党は当然としても、どの野党もそんな政策は提案しない。労働組合にもそんな話はまったくない。どの連中も「おカネを国民に配る」ことには反対らしい。国民の生活が第一ならぬ「カネの価値が第一」なんじゃよ。

まあ、そんなわけで、国民の大部分は「生産性の向上と仕事の効率向上」を混同しておる。そして新聞マスコミが「生産性の向上のために脱時間給・・・」と書けば、「しかたない」と納得してしまう。もちろんそれが新聞マスコミの狙いじゃ。だから新聞マスコミは「生産性向上・生産性向上」を連呼し、生産性を錦の御旗にして国民の労働強化に向けてまい進しておるのじゃよ。

騙されてはいかん、まず最初に行うべきなのは「国民におカネを給付して国民の購買力を向上させること」じゃ。そうすることで初めて、みんなが考えている生産性の効果が実現できるのじゃ。

~本編サイトと同時掲載~