2018年6月17日日曜日

悪いベーシックインカムについて

ベーシックインカムにも様々なタイプがあるため、なかには私たちの生活をかえって貧しくしたり、格差を広げるようなタイプがあると思われます。そうしたリスクに注意する必要があるでしょう。

(じいちゃん)
今日は悪いベーシックインカムについて考えてみよう。

(ねこ)
ふにゃ、ベーシックインカムに良いとか悪いとかあるのかにゃ。ベーシックインカムはすべて良いものじゃないのかにゃ。

(じいちゃん)
ベーシックインカムと言えども、何でもかんでも良いわけではないのじゃ。前回も説明したように、ベーシックインカムは様々な立場の人が主張しておる。目的も様々じゃ。じゃから、なかには人々の生活を貧しくしたり、あるいは格差を広げるような「悪いベーシックインカム」が混在しているリスクがある。そのような点に十分に注意して、悪いベーシックインカムが社会に導入されないようにしなければならんのじゃ。

さて、ワシが考えるには、悪いベーシックインカムには3つのタイプがあると思うのじゃよ。

①搾取型ベーシックインカム

ベーシックインカムの定義に「最低限の生活保障」がある。このため、ベーシックインカムによる支給金額をあくまでも「最低限の生活」に制限し、それ以上に増やす必要はないとする規定を制度化する恐れもある。しかし考えれば直ぐわかることじゃが、テクノロジーが進化すれば社会全体の生産能力が向上するのだから、ベーシックインカムによる支給額を最低額に留め置く必要はないはずじゃ。それをあえて最低限に制限すればどうなるか。

テクノロジーが進化するほど人手が不要になるのじゃから、多くの人には仕事がなくなる。そうした多くの人の生活は最低限に留め置かれることになる。仕事に従事してもっと生活を向上させたいと思っても、機械が進化した社会では仕事そのものがないから難しい。一方で生産力が向上してより豊富で高品質な商品やサービスを生産できるが、それらは一部の労働者や生産資本を所有している富裕層だけで独占するようになる。その結果、最低所得に留め置かれた多くの人々と、富裕層労働者や資本家という、二極化した格差社会が生まれるリスクもある。

搾取型ベーシックインカムの主張は、社会の支配層やその代弁者である政治家や企業から出てくる可能性があると思う。彼らの目的は庶民の生活向上より企業利益、株主利益を優先するものになると思われるからじゃ。例えば彼らのベーシックインカムの導入目的は人工知能やロボットによる生産性の向上をスムーズに進めるためかも知れない。もしベーシックインカムなしに機械化を進めれば失業者が増加して社会問題となり、余剰人員の削減に世間の非難が集中するじゃろう。じゃから、不必要になった社員を簡単に解雇することを目的としてベーシックインカムを提案してくる可能性もある。これは搾取型のベーシックインカムになると思うのじゃ。

これらを主張する人の中には、社会保障そのものを削減することを目的とする人もおり、健康保険までベーシックインカムに含めてしまおうと考える人々が居るかも知れないが、これは非常に危険なベーシックインカムになるじゃろう。そもそもベーシックインカムは生活「保障」なのであって、疾病のリスクに対応するための「保険」とは根本的に異なる概念じゃ。ベーシックインカムと健康保険がリンクすることは、あってはならないのじゃよ。

②貧困型ベーシックインカム

この考え方の根底には「日本はもう経済成長しない」という前提があるのじゃ。日本は少子高齢化によって坂を下るように経済が縮小することが避けられない。どうせ貧しくなるのだから「平等に貧しくなろう」という考え方じゃ。しかし考えれば直ぐわかることじゃが、テクノロジーが進化すれば人間ではなく機械が財(モノやサービス)を生産するようになるのじゃから、少子高齢化であっても経済成長が可能であることは明白じゃ。仮に人口が減って総生産量がまったく増えなくとも、人口が減少するのだから1人当たりに分配される財の量は増加する。

しかし、なぜか日本が経済成長することを強く否定し、むしろ国民が貧しくなることを喜ぶような雰囲気さえ感じられる。そこには「豊かさ=悪」「貧しさ=善」のような思想、清貧思想のようなものを強く感じてしまうのじゃよ。まあそう信じるのは人それぞれに勝手じゃが、それが政策内容に影響すると本当に日本全てが貧しい社会になる恐れもある。

例えば通貨供給。経済が成長するためには通貨供給が欠かせない。今日の長期的なデフレ不況も通貨の供給が不足していることに原因があると考えられている。じゃから人工知能やロボットが進化し、社会に普及するに伴って通貨をどんどん供給しなければならないのじゃ。ところが「日本は成長しないのだから、通貨供給はインフレを高めるだけだ」として意図的に通貨供給を絞るリスクがある。

通貨が不足するとデフレ不況に突入するため経済は衰退を始める。当然ながら失業者が増加するが、ベーシックインカムによって失業者の最低生活は保障されているので、社会的大問題にはならないじゃろう。しかしデフレ不況を放置することで日本経済は継続的に縮小を続け、総生産量が減少するためにベーシックインカムの支給額も減り続けることになる。つまり「国民全体が徐々に貧困化する」。最終的に日本経済はデフレで破綻するが「少子高齢化社会だから仕方がない」と言って、済まされてしまう恐れがあると思うのじゃよ。

③緊縮型ベーシックインカム

財政再建や緊縮主義が優先するベーシックインカムのことじゃな。財政再建や緊縮財政を行なうと景気が悪化することはこれまでの経験から明らかじゃ。景気が悪化すると失業が増大して貧困や格差の問題が拡大する。そのことが財政再建や緊縮財政の歯止めになっていると言える。ベーシックインカムを導入すれば、こうした貧困や格差の問題が解決できるため、財政再建や緊縮財政を進めやすくなるじゃろう。しかもベーシックインカムを導入するという大義名分で堂々と消費税を増税することもできる。

財務省やその族議員からこうした考えが出てこないとも限らないと思うのじゃ。この場合、政府は「消費税の増税分はすべてベーシックインカムの財源に使用します」と言いつつ、実際には税収の一部が財政再建のために流用されることになる。そうなると税として集められたおカネの全てが再分配されるわけではないので、徐々に世の中を循環するおカネの量が減り続けてデフレ不況になり、経済成長も阻害されてしまう。しかし財務省に忖度する新聞マスコミが「国の借金を返済するのだから、国民が貧しくなるのは当たり前だ、痛みを伴う改革を受け入れろ」と主張して済まされてしまう恐れがある。

しかし考えれば直ぐわかることじゃが、テクノロジーの進化によって供給力が増大するのだから、本来であれば国民が貧しくなるはずがない。つまりこれは、財政再建や緊縮財政の考え方が根本的に間違っていることを示唆しておるのじゃよ。結論から言えば、カネを発行して財政再建すれば良いだけじゃ。」

(ねこ)
ふにゃ~、悪いベーシックインカムが導入されたら困るのです。

(じいちゃん)
重要なことは「テクノロジーが進化して生産力が増加すれば、国民は必ず以前よりも豊かになるはずだ」という点を忘れないことじゃ。もしテクノロジーが進化しても人々がさっぱり豊かにならない、あるいは逆に貧しくなるようであれば、そのベーシックインカムの方法は根本的に間違っていることは間違いない。

もちろんこれは、今後も順調に人工知能やロボットのようなテクノロジーが進化し、ロボットや自動生産工場の建設等に投資が十分に行われることが前提じゃ。そのためには研究開発や設備投資がとても重要になる。政府の財源が不足しているという理由で研究や投資が十分に行われなければ、悪いベーシックインカムでなかったとしても、人々はあまり豊かになれないかも知れないので注意が必要じゃろう。

(ねこ)
悪いベーシックインカムが導入されたら、もうおしまいなのかにゃ。取り返しが付かないのかにゃ。

(じいちゃん)
そんなことはないぞ。国民運動として支給額の増額を政府に厳しく要求すれば、悪いベーシックインカムを潰すことができる。重要な点は「テクノロジーが進化して生産力が増加すれば、国民は必ず以前よりも豊かになる」じゃ。政府やマスコミの話に納得して、最低限の所得保障に甘んじる必要はないのじゃよ。

本編サイト同時掲載