2018年6月16日土曜日

立場で異なるベーシックインカムの考え

ベーシックインカムは様々な立場の人が主張されており、その立場によって主たる目的が異なる場合があります。そのため同じベーシックインカムでも主張内容に違いがあり、また目指そうとしている社会も違ったものになるかも知れません。

(じいちゃん)
ベーシックインカムと一口に言っても、様々な人の主張内容を聞くと違いが大きいことに気付くはずじゃ。
なぜそうした違いがあるかと言えば、様々な立場の人がそれぞれの目的でベーシックインカムを主張しておるからじゃ。じゃからベーシックインカムは多種多様だといっても過言ではないじゃろう。「すべての国民に基本的な生活を営むためのおカネを無条件に支給する」という点では同じじゃが、それ以外は異なるのじゃ。

(ねこ)
ふ~ん、ややこしいんだにゃ。ただベーシックインカムに賛成あるいは反対という単純な話じゃなくて、どんな内容のベーシックインカムが望ましいかを考える必要があるんだにゃ。

(じいちゃん)
左様じゃ。ではどのような立場でベーシックインカムを主張しているか、ワシなりに分類して考えてみた。

①社会福祉・貧困救済

福祉の向上や貧困救済活動の立場から主張する人々じゃよ。大雑把に言えば左派系じゃな。これは1960年代から1970年代にかけて世界の幾つかの国々で社会運動として行なわれていた。アメリカでは公民権運動で有名なキング牧師もベーシックインカム提唱者だったのじゃ。彼の主張したベーシックインカムは最低限の生活保障ではなく社会の中間の水準の保証であり、また経済成長に比例して所得が増え続けるものだった。こうした運動は黒人、貧しい母子家庭、主婦の間で広がり、イギリスやフランスでも行なわれたという。彼らの目的は貧困の解消であり、女性の所得向上であり、生存権の保障だったわけじゃ。市民運動に近い位置にあるともいえるじゃろう。

②小さな政府・生産性向上

政府による経済や社会への関与を極力減らそうとする立場、いわゆる小さい政府の立場から主張する人々じゃ。現在の社会保障制度には無駄が多いとされる。例えば給付型の社会保障を考えると、年金、失業給付、生活保護、児童手当など多数あってそれぞれが別々に管理運用されておる。これでは管理のために多くのコストが割かれて、国民に再分配される金額が減ってしまう。また生活保護は補足率が非常に低く、本来は保護を受けられる人が受けられなかったり、不正受給の問題も生じる。そこでそれらをベーシックインカムの形に一本化することで行政コストを削減しつつ支給額も増やそうとする考え方じゃ。小さい政府を主張する人々は新自由主義者であるとも言われる。新自由主義を主張する人々は現在の資本主義経済の信奉者でもあって、市場原理を重視し、企業の立場にも近い。

③エンジニア・未来科学者・AI起業家

人工知能やロボットの急速な進化に伴って最近増えてきた立場じゃ。人工知能やロボットが進化すれば人間の労働の価値が低下あるいは不要になってくる。賃金が低下して失業も増大する(技術的失業問題)。こうした事態に対処するためには、労働とは無関係に人々に所得を分配するベーシックインカムが必要不可欠になるとの考えじゃ。これは人工知能の研究者あるいは最先端の起業家、例えばテスラを率いるイーロン・マスク氏、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏も主張しておる。また理想的な未来社会では自動生産工場やロボットによって生活に必要な生産活動のほとんどが行なわれるようになるはずじゃから、そうした社会に向けてベーシックインカムの制度を徐々に整える必要があるとも考えられる。

④自由主義

人間の自由な活動を大切にする人々じゃ。とはいえ自由主義は説明が難しい。これはいわゆる新自由主義とは異なる。新自由主義は経済活動を中心とした経済学の考え方じゃが、自由主義の考えは人間の行動を束縛するあらゆる物事を極力排除して、人間本来の自由な活動を取り戻したいとする考えじゃ。例えば、今の世の中は自由主義だというが、実際には資本の活動が自由なだけであって、人間の活動が自由だとは必ずしも言えないのじゃ。昔の時代であれば土地や海(生産手段)はすべての人の共有財産じゃった。そうした時代であれば生まれた人間はまさに自分の自由な活動で生活することもできた。しかし現代の生産手段はすべてに所有権があり、資本を持たずに生まれてきた大部分の人々は賃金労働者として生活するしか生存する方法はない(事実上の強制性)。これが「長時間労働」「過労死」のような人々の自由を大きく損なう事態を引き起こしているとも言える。こうした状況を脱するためにベーシックインカムは大変有効だと考えられるのじゃよ。

(ねこ)
なるほどにゃ、ベーシックインカムを主張する立場はいろいろあるんだにゃ。おまけにそれぞれの立場が重複したり、重複のウエイトが異なるから、ベーシックインカムには実に多くのバリエーションが考えられるんだにゃ。

(じいちゃん)
そうじゃな。ベーシックインカムはある意味で「同床異夢」であるとも言える。例えば同じようにベーシックインカムを主張する立場でも、社会福祉・貧困対策を主張する立場は大きい政府だし、市場経済には批判的じゃ。同様にベーシックインカムを主張する小さい政府や新自由主義の立場はどちらかと言えばその反対に位置する。じゃからベーシックインカムが実際に導入される段になれば、誰が主導権を得るか、何を制度に盛り込むかによって激しい対立が生じることがあるかも知れない。

こうした中で、ワシらは「どんなベーシックインカムが良いのか」を自ら考えて選択する必要があるじゃろう。ベーシックインカムのあるべき姿は、マスコミや、まして政治家の話によって決めるべきものではない。支給金額、導入方法、社会保障等との関係などは、「国民が当事者意識を持って決める」ものだと思うのじゃよ。

本編サイト同時掲載