2010年8月8日日曜日

(5)銀行制度の課題

前回の話をもう少し簡単に考えてみましょう。ここで理解いただきたい事は、信用創造とは何か?という事です。信用創造とは銀行が、自身の保有している現金を何倍にも膨らませて人々に貸付ける仕組みです。これがバブル期に大量のあぶく銭を放出し、その後の破綻でお金不足の恐慌を引き起こす原因となっているのです。

あなたがもし現金で100万円を持っていて、誰かに貸すとします。持っているおカネは100万円ですから、普通は他人に貸すことのできるおカネは100万円まででしょう。しかし、銀行は100万円を持っていると1000万円貸すことができます(実際にはさらに多く)。これが信用創造と呼ばれる手法です。現金100万円を元に1000万円を作り出し(信用創造)、100万円を10人に貸し付け、それぞれから利息を得ますから、普通に100万円だけを貸す場合よりも10倍多くの利息を手にすることができます。これは銀行だけに許された特権で、一般の個人や企業がこれをやると犯罪になります。

はて、100万円しかないのに、どうやって合計1000万円を貸すことができるのか?そこで登場するのが「預金通帳」です。誰かに100万円を貸すと言っても、現金で貸す必要はありません。銀行がまず借用証に貸し付け金額100万円を記入します。次に借り手が借用証にサインします。そして銀行が借り手の預金通帳に「預金100万円」と記帳するだけです。これで借り手に預金100万円が貸し付けられました。現金は一切動かず、そのまま金庫に残っています。現金を貸す必要は無いのです。おカネを借りた人は、この通帳に記帳された100万円を使って様々な支払いを行いますから現金は不要なのです。銀行は現金ではなくて預金を貸すのです。預金は帳簿上で無限に増やす事ができ、それを借り手の預金通帳に100万円と記帳するだけで貸し出しできます。これなら現金を100万円しか持っていなくとも、10人にそれぞれ100万円を貸し付けることなど簡単なことですね。このような手順で、実際には法的に制限さえなければ、無限に貸し出しを増やすことができるのです。つまり、借金という形でおカネは無限に増やせるのです。これが信用創造です。

預金とは銀行が誰かに貸すために作り出したおカネであることがわかりました。現在の日本ではおよそ現金が70兆円ありますが、預金は400兆円もあります。つまり世の中のおカネの9割近くが誰かが借りた借金なのです。このお金は借金ですから、借り手が借金を返済してしまうと、このカネは消えてしまいます。景気が良くて借り手が多いうちは良いのですが、不況で借りる人が減ると、世の中のお金はどんどん減り始めます。世の中のおカネの量が減ると言うことは、デフレを引き起こす原因になります。つまり、デフレの原因は現在の銀行制度そのものにあるのです。

さて、銀行は他人におカネを貸す場合に借り手からそれぞれ担保を入れさせます。100万円を元に10人から合計で1000万円に相当する担保を取ります。もしおカネを貸したうちの5人が借金を返せない場合は、500万円の貸付金は損失になりますが、かわりに500万円分の担保が銀行のものになりますので、損するどころか、資産を手に入れることができるわけです。ここが大変重要です。前述のように、銀行は預金通帳に100万円と記帳するだけで特に何の価値も生み出してはいないのですが、現実に価値のある担保を要求することができます。

これは何を意味するでしょう?ある一定の割合で貸し倒れが発生するとすれば、時間の経過とともに世の中の資産は徐々に銀行に吸収されていくことになります。十分に長い時間があれば、やがてはすべてが銀行の物になることになります。奇妙に聞こえますが、理論的にはそうなります。

このように書くと、何か銀行が悪いことをしているように感じられる方もおられるかも知れませんが、別に銀行は合法的なことをしているだけで、悪いことは何もしていません。銀行を非難するなど無意味な感情論に過ぎません。そうではなくて、現在の銀行制度が社会のシステムとして機能的か、機能的でないかを考えているわけです。そして、社会のシステムとして、現在の銀行制度に問題があるならば、変革しなければならないはずです。

この制度で問題なのは、銀行が100万円の現金から1000万円のおカネを生み出すという仕組みにあります。信用創造と呼ばれる仕組みです。信用創造によって民間銀行が無から創造したおカネは非常に不安定で、景気変動で簡単に増えたり減ったりしてしまいます。現在の社会はこのような非常に不安定なおカネに経済活動が依存しているため、バブルと恐慌を繰り返します。おカネに実体経済が振り回されることになるのです。もともと経済には好景気と不景気の波があるのはやむを得ないことでしょう。しかし信用創造はその波を何倍にも増幅して、社会に極端な影響を与えます。つまり好景気の時はお金を必要以上にどんどん放出し、景気が悪くなるとお金を極端に縮小してしまうのです。経済活動はもっと安定したおカネが担わねばなりません。

安定した経済には安定したおカネが必要です。借金として生み出される不安定なおカネではなく、消えてしまう心配の無いおカネが必要です。預金は借金の生まれ変わりであるため消えてしまいます。しかし現金が消える事はありません。ですから、現金の重要性をもっと高め、現金を主体とする通貨制度にする必要があると思うのです。もちろん、現代社会ではおカネの9割が借金から出来ているわけですから、急に現金中心の通貨制度に変更などすれば大混乱を引き起こすかも知れません。ですから、時間をかけて徐々に世の中のおカネの割合を預金中心から現金中心に変えていくわけです。現金は急に増えたり減ったりしませんので、インフレもデフレも穏やかになります。バブルなどを引き起こすこともなくなります。