2018年9月28日金曜日

デフレはなぜ悪いのか

デフレ(デフレーション)が良いと考えている人が今でも居るかも知れません。では、デフレがなぜ悪いのか、デフレのままだと将来どうなるかを考えてみましょう。

<デフレそのものが悪いというより、デフレを引き起こしている経済環境が悪い>

デフレ(物価の下落)そのものは私たちの生活にとって悪いことではありません。物価が下がって得をしている人も大勢居ます。ではなぜデフレが悪いのか?実際には物価の下落そのものというより、デフレを引き起こすような経済環境(デフレ不況)に問題があります。

デフレを引きこすような経済環境とは?それは供給に対して需要が不足している状態です。この状態になると、市場では商品が売れ残り、企業の値下げ競争が始まりますので、物価は下落し、デフレになります。この状態がまずいわけです。デフレとは商品が売れ残る状況ですから、企業は財の生産を縮小します。そのため、社会全体としての富の産出量が減少しますから、社会は貧しい方向に向かいます。これはGDPは縮小を意味します。そもそも供給力が十分にあるのであれば、生産を縮小する必要はないはずです。より多くの財を生産して人々に分配すれば、社会は豊かになるのですから。

ところが、需要が足りないために生産が縮小されてしまいます。なぜ需要が足りないか理由は単純明快であり、それは消費者に購買力が不足しているからです。つまり「買いたくてもカネが無い」わけです。評論家の中には「おカネが無いのではなく、人々に欲がないからだ」などと主張する人がいますが、大きな間違いです。もし欲が無いほど満足な社会ならば、低所得層や貧困などあり得ないからです。彼らは欲が無いから低所得層や貧困なのではありません。カネが無いのです。

どれほど人々に欲求があったとしても、おカネがなければそれは需要に結びつきません。おカネに裏付けられた需要を「有効需要」といいます。デフレとは供給に対して有効需要が不足した状況です。これがデフレの正体であって、単に物価が下がることではありません。この状況が悪いわけです。様々な問題を引き起こす元凶となるからです。

<賃金が減り続け、貧困と格差が増加し続ける>

デフレ不況になると商品が売れ残るため、企業の値下げ競争が始まります。商品を値下するために人件費がカットされることになり、労働者(=消費者)の賃金が下落してしまいます。賃金が下落するため、消費者の購買欲が一層低下し、ますます商品が売れ残るようになります。すると企業の値下げ競争がますます激化する。こうした悪循環はいわゆる「デフレスパイラル」と呼ばれます。

また、賃金が下がるだけではありません。商品の価格を下げるためにリストラ(解雇)が始まります。景気の良い時であれば、解雇された人は容易に再就職できますが、不況下では長期間に渡って失業を余儀なくされるケースも多いでしょう。そうした人々は貧困化しますから、貧困や格差が増えることになります。また、デフレが長期化すると、コストダウンがリストラ程度では済まされず、多くの企業が日本の工場を閉鎖して従業員をすべて解雇し、生産拠点を中国のような途上国に移してしまうことが起きます。産業の空洞化です。

<ブラック企業が跋扈する>

デフレ不況になると失業者が巷に溢れます。現代の社会では(一部の資産家を除いて)働かなければ1円の所得も得られない仕組みになっています。つまり失業=死ぬしかありません。そのため、失業した人は生きるために、どんな苛酷な労働環境の仕事であっても、就職せざるを得ない極めて弱い立場におかれます。もし好景気であればこんなこと起きません。酷い労働環境の仕事であれば、社員がどんどん辞めてしまうからです。こうして低賃金・長時間労働によって社員を酷使することでコストを抑え、低価格の商品やサービスを提供するブラック企業が台頭してきます。

こうしたブラック企業は、従業員を犠牲にすることで強い価格競争力を獲得しています。そのため、従業員を厚遇するホワイト企業はコスト競争でブラック企業に駆逐されることになり、結果として社会全体にブラック企業が蔓延することになります。ブラック企業が雇用を生み出しているというおかしな主張がありますが、実際にはブラックな雇用が増えて、そのぶんホワイトな雇用が減るだけです。

<経済力がどんどん衰退して貧しくなる>

デフレ不況ではモノが売れません。売れない環境では企業の投資は減ってしまいます。利益が減るため投資余力がなくなりますし、投資しても回収の見込みが立たないからです。生産設備への投資はもちろん、研究開発、商品開発も十分に行なわれなくなります。すると、社会の供給力が伸びなくなってきます。これは経済成長率が低下することを意味し、国民の生活水準が伸びなくなることを意味します。また、長期的に投資が行われなければ、潜在成長率も低下します。生産設備が老朽化し、技術やノウハウの蓄積もされなくなるからです。そして輸出競争力が損なわれ、輸出が減退して輸入超過となり、やがてギリシャ化しても不思議はありません。社会は貧困化へ向かいます。

少子高齢化の日本では、ますます投資が必要とされています。なぜなら、技術を開発し、生産設備を増強することによって、生産性を高める必要があるからです。そうしなければ、労働力不足によって供給力が減ってしまうからです。逆に言えば、少子高齢化になっても投資が行われない状況(デフレ不況)にあることは、将来的に大変危険であると言えます。供給力が不足してインフレを引き起こす原因になるからです。このインフレは供給力の低下によって生じるため、悪性のインフレになる可能性が高いのです。このインフレはデフレより遥かに厄介な事態を招くでしょう。

<デフレの時代に再分配する事の難しさ>

貧富の格差問題を、デフレ不況ではなく、所得の再分配の機能不全によるものだと考える人もいるでしょう。しかし考えてみると、デフレの環境で再分配するのは、なかなか難しいものです。なぜなら、デフレになると税収が落ち込むため、再分配するためには、まず「増税しなければならない」からです。いくら「格差是正のため」と美辞麗句を言われても、税金が増えることを喜ぶ人はいません。つまり、デフレ不況のままでは再分配はやりにくいのです。

一方、デフレから脱却して景気が回復すると、市場を循環する通貨の量が増大します。すると、現在の税制によれば、税率がそのままでも税収は増えます。つまり、景気回復すれば増税することなく、税収が増えるのです。この税収が再分配の原資となります。これにより増税することなく社会保障を充実することができます。また、そもそも好景気になると失業が減って所得が向上するため、社会保障に必要とされる経費も少なくなります。

<デフレの被害はまだら模様に現れるので軽視されがち>

デフレを理解する事の難しさは「被害がまだら模様に現れる」ことにあります。たとえば、インフレは国民全員が痛みを感じます。買い物に行って、商品の値段が値上がりしていれば全員が痛みを感じます。しかし、デフレは国民全てが痛みを感じるのではありません。それどころか、商品が安くなるという「うれしい感覚」さえあるという始末です。

インフレはすべての国民に同時に影響しますが、デフレは国民のごく一部の人にだけ、集中的に影響します。デフレの悪影響は、賃下げされる人、リストラされる人、派遣労働者やパート社員といった、社会的弱者に襲い掛かります。それ以外の大部分の人たちにとっては痛くも痒くもない、むしろデフレは快適なのです。

デフレによる犠牲者は「椅子取りゲーム」の敗者のように、一人、また一人とじわじわ増えます。椅子にすわっているうちは、その事に気が付きません。椅子が無くなった瞬間、どん底に落とされる事になります。これは主に会社の倒産、リストラなどによる失職のためです。不況で、職場そのものがジワジワとなくなるのです。デフレ不況ですから、椅子の数は増えません。椅子は奪い合いになるだけで、全員が座ることはできません。

このように、デフレの犠牲者は一部の人にだけに、徐々に現れる。だからこそ、国民全体の危機感としては現れにくいと言えます。そして国民全体に被害が及んで大騒ぎになった時には、すでに手遅れになっている危険性がある。それが、デフレの盲点なのです。

<デフレの解決はインフレより簡単である>

デフレの解決はそれほど難しくありません。供給力に比べて有効需要が不足した状態にあるのですから、消費者(家計)におカネを給付するだけで良いのです。おカネが不足している人は大勢います。おカネが無いから買いたいものを我慢している人もたくさんいます。そうした国民におカネを給付するだけです。財源はおカネを発行するだけで確保できますので、何も難しいことはありません。手続きだけで可能です。

一方、もしインフレなのであれば、これは解決が少し面倒です。インフレは有効需要に対して供給力が追いつかない状況です。供給力を増やすには、生産設備の増強や生産性の向上が必要になります。これはおカネを発行するのとは違って格段にハードルが高い作業になりますし、時間も必要です。もし短期間にインフレを収束させたいのであれば、有効需要を減らす必要がありますので、増税が行なわれるでしょう。ただしこれは給付金とは逆に、国民の反発を招くことになるでしょう。

生産設備や生産性がまだ不足していた時代、たとえば高度成長期の場合は、インフレになりやすい環境にありました。この時代はインフレ対策がとても重要であり、デフレなど起こるとは考えられもしなかったでしょう。しかしテクノロジーが進化して生産設備の蓄積も進んだ21世紀の今日にあっては、インフレではなくデフレが生じるようになりました。これは供給力が大きくなった結果であり、おカネを国民に配って、有効需要を増加するだけで、この供給力を十分に活用することが可能であり、それが国民を豊かにする方法なのです。

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