2016年11月23日水曜日

トランプ氏の二国間交渉も要注意

ついにトランプ氏がTPPの離脱を明言しました。これでTPPは頓挫する可能性が大きくなりましたが、トランプ氏は二国間交渉をすると言い出しました。しかし、トランプの二国間交渉は危険な予感に満ちています。貿易不均衡(日本の対米黒字)を挙げて、強引な交渉を仕掛けてくる可能性があるからです。これはTPPよりさらに面倒なことになる。どう対応するか?素人なりに少し考えてみます。

まず、「米や畜産品の関税撤廃をしないと、自動車に課税するぞ」と恫喝してくると考えがちですが、たぶんそれはないかと。日本の農業生産総額は畜産含めて8兆円程度しかない。米は1.4兆円、畜産が3兆円。自分がビジネスマンなら農業など放置して、「貿易が均衡するまで自動車に課税する」と言います。農業関税よりも、むしろこうなると面倒です。

財務省の貿易統計を確認してみましょう。
貿易統計報道発表H27
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2015/2015_117.pdf

これによると、日本の対米貿易黒字は年間約7兆円あります。何の策も講じることなく、日本がアメリカからの輸入を増やして7兆円もの黒字を解消することは厳しいと思われます。一つの方法としては、国内の景気回復の点からも、ヘリコプターマネーのような給付金によって国民の購買力を高め、輸入を増やす方法があります。

しかし、それだけだと、アメリカからの輸入が増えるとは限りません。中国からの輸入が増えるだけかも知れません。ヘリマネによる内需拡大は絶対に必要だと思いますが、他の政策も同時に必要かと思うのです。

そもそも日本は対米黒字であるとはいえ、総貿易収支は赤字傾向になっています。日本はアメリカ以外の国からの赤字を抱えているわけです。では、いったい、どの国からの貿易が赤字なのか。中東からの赤字が約6兆円、中国からの赤字が約6兆円です。つまり、アメリカからドルを吸い上げて、中東と中国へ流しています。これにアメリカが不満なわけです。

これを単純に解決しようと思えば、アメリカ以外の国から輸入するのをやめて、代わりにアメリカから輸入すればよい、ということになります。もちろん、自由貿易ですから、言うほどに簡単にできるわけではありませんが、一つの方針としてありえると思います。

たとえば、中東からの赤字は、ほとんど石油などです。ですから中東から石油を買うのではなく、アメリカから買えばよいことになります。これらの輸入額は約9兆円です。仮にこの1/3をアメリカから買えば、アメリカから吸い上げたドルの約3兆円がアメリカに戻ります。トランプ氏はエネルギー資源の輸出規制を撤廃し、エネルギー資源の輸出に力を入れると発表しましたから、これはまさにちょうど良いタイミングです。

次に中国です。日本は中国から膨大な輸入をしていますが、これは日本から中国への産業移転が進んだ結果、そうなったものです。つまり、日本にあった工場を中国に移転し、そこで生産した製品を日本に輸入する形になっています。輸入額は電気機器5兆円、電算機類(コンピュータ)2兆円、衣類など2兆円といった具合です。また、原料(鉄やプラスチックといった素材)も約2兆円あります。

つまり、中国にある工場をアメリカへ移転すればよいわけです。そして中国で生産するのではなく、アメリカで生産し、それを日本に輸入すればよいわけです。たとえば、中国から輸入している電気機器、電算機、原材料のうち、合計4兆円分をアメリカにもっていく。これは対米投資を意味します。アメリカでは設備投資が増加して景気を刺激し、工場の建設で雇用が生まれます。しかも、貿易不均衡は改善します。

ただし、これだけ自由化が進んだ時代にあっては、そう簡単にはいきません。笛吹けど踊らず。市場は市場原理で勝手に動くものです。ですから、政府主導の政策と、長期的なビジョンに基づき、徐々に成果を出すしかないと思われます。手っ取り早いのがシェールオイルや天然ガスの輸入量を増加することで、構造的な変化が必要な対米投資の拡大については、じっくり取り組む。これをもって、トランプ氏と交渉するわけです。

もちろん、未来的には完全資源リサイクルや完全自動生産などの高度テクノロジーにより、各国の経済的独立性を高めて、貿易は最小限にとどめるようにするべきですが、現状は難しいところもあるので、現在のシステムの範囲で考えます。

御用学者に言わせれば、こんなのは素人考えだと批判するでしょうが、では逆に、グローバリズムによって、どうやってアメリカの雇用を生み出し、貿易不均衡を改善するというのか?そんなメカニズムは聞いたことがありません。耳にするのは、美しいお題目ばかりです。