2016年5月10日火曜日

ベーシックインカム議論の疑問

ベーシックインカムについては、賛成、反対の立場があり、互いに批判しあっています。それを眺めていますと、自分には疑問な点が幾つかあります。

ベーシックインカムを支給すると人間が働かなくなるとか、成らないとか、そういう議論になってますが、これは実例が無いので議論しても結論は出ないと思います。いわば水かけ論争です。やってみないとわかならない。ただし、仮に働く人が急激に減るとすれば、想定外の事態が生じてくる可能性があるため、いきなり満額のベーシックインカムを実施するのはリスクが高いでしょう。

また、将来的にロボットやAIが人間の代わりに労働する世界になれば、必然的に人間は「生活のために無味乾燥な労働をする」必要はなくなります。にもかかわらず、人間は働かないとならないという道徳感情を持ち出すのもおかしな話です。あくまでもシステムとして考えないと理屈が合わなくなります。

また、システムという点では、ベーシックインカムの、生存権として無条件に生活物資が手に入る、という考えもまた理解できないのです。モノやサービスは誰かが労働しなければ供給できません。労働しない人が労働する人の生み出す財を無償で手に入れるなら、これはある種の労働搾取であるとも考えられます。

ただし、自動生産システムによって仕事そのものが減ってしまえば、働きたくとも働けなくなります。こうなると社会の経済システム自体がマヒしてしまうので、ワークシェアリングとして仕事を分配するか、退職年齢を早めるか、あるいは失業給付として仕事の無い人に所得補償をする必要が必ず生じるはずです。この場合は必ずしもベーシックインカム(全員に給付)である必要はないのですが。

財源があるとか無いとかいう話もあまり意味がありません。なぜなら、本気でベーシックインカムをやろうと思えば、それこそ現在の社会保障費支出額+通貨発行でできます。ただし、通貨は財と違って循環して無限に使用されるため、通貨の循環システムを考えて設計しないと、どこかに通貨が偏在・停滞する可能性があるのです。しかしベーシックインカム制度における通貨循環のシステムに関する話はあまり聞きません。

ベーシックインカムは単なる社会保障制度ではなく、基本的な経済システムになります。ですから、生産と分配のシステムとしてどのように設計されるのか、といった議論が必要だと思われます。