2011年3月5日土曜日

2)「欲しい物が無いから需要が増えない」はウソ


<通貨の意味を問い直す時代に>

需要はおカネが支える

「人々はおカネを持っているが、世の中に欲しい物が無いから需要が増えない。」との主張が聞かれます。おカネが不足しているのではない、おカネをいくら供給しても需要は伸びない、だからデフレは解消しないという主張です。しかし世の中に魅力的な商品があるかないかで景気が変動するなど聞いたことがありません。景気の巨大な変動は「欲しいモノの有無」で説明ができません。もちろん魅力的な商品が登場すれば、その商品の需要は拡大しますが、他の商品の需要が同時に伸びるという根拠にはなりません。国民一人当たりの購買力が変化しなければ、むしろある特定の商品が売れるようになった結果、他の商品が買い控えられることになり、社会全体の需要を押し上げることにはなりません。ですから規制緩和や新産業の育成により魅力的な商品が生まれたところで、国民の購買力、つまり国民所得が増加しなければデフレは解消しません。

 一方で、好景気は必ずバブルを伴っています。高度成長期には土地神話を背景とする土地バブル、1990年頃の日本のバブルは加えて株バブル、その後のアメリカのITバブル、サブプラムローンなどのバブル。いずれも日本や世界がバブルで好景気に沸き立っていました。バブルは資産価格が連続的に高騰する状態ですが、その際には大量の信用通貨=預金が生み出され、それらが市場における資産の売買を通じて通貨のフロー系に大量に流れ込みます。国民所得とはフロー系で成り立つため、バブルにより国民所得が直接に向上し、購買力が高まります。しかも需要の増大でインフレが発生するために、おカネを貯蓄するよりも、モノに変えた方が得になるため、デフレ期のように貯蓄が増えて消費が停滞することはありません。企業の設備投資は旺盛な消費に支えられて拡大します。まさに好景気です。

ストック系はおカネがじゃぶじゃぶ、フロー系はカラカラの金欠

 つまり好景気を支えているのは新産業でも規制緩和でも何でもありません。バブルによって生み出される大量の預金通貨により需要が生み出されるのです。しかも、おカネがフロー系に流れ込むことが重要です。まずこの事を明確に認識する必要があります。バブルで生まれたおカネは不動産や株式の売買を通じてフロー系に流れ込みます。これが好景気を支えます。確かに現在も日銀の金融緩和により大量の現金を民間銀行に流し込んでいますが、これはストック系のおカネを増やしているだけです。ストック系のおカネがフロー系に流れ込むには「誰かが借金をしなければならない」のです。デフレがここまで悪化してしまった日本では、誰も借金など好き好んでするはずがありません。つまりストック系にはじゃぶじゃぶに現金が溢れていますが、フロー系はカラカラに干からびた金欠状態が続いているのです。これが根本的に問題です。

 ですから日本銀行が金融緩和政策でストック系の現金の量を増やすよりも、この現金を直接にフロー系へ流し込むことが、より効果的であることがわかります。つまり増やしたおカネを、これからの日本を支えるための社会資本や基幹産業の育成に投資することで雇用も同時に生み出し、買い物割引クーポン券やエコポイントの拡大で国民の購買力を直接に底上げするなどの、フロー系を直接活性化するための財政政策が必要です。そのためには、現金を大量に供給する必要があり、それは日本銀行が国債を直接に引き受けることで可能となります。

バブル期でもハイパーインフレは起きなかった

日銀が国債を直接に引き受けると「ハイパーインフレ」という話が必ず出てきますが、それではなぜ「バブルがハイパーインフレを引き起こす」と主張しないのでしょうか。国債引受は日銀がおカネを作る行為ですが、バブルは民間銀行がおカネを作る行為です。同じ信用創造なのになぜ日銀の信用創造はハイパーインフレと主張し、民間銀行の信用創造は何も言わないのか?しかも日銀の発行するおカネより銀行が作り出す預金通貨の方がはるかに多いのです。そして、バブルで何度も経験しているように民間に通貨供給を依存するとノーコントロールとなり無制限に膨張して崩壊してしまう。こちらの方がはるかに問題です。景気が回復して好景気になればインフレになるのは当然です。しかしインフレとハイパーインフレは根本的に違うものです。供給能力が十分にある状態(むしろ過剰供給)でハイパーインフレが発生した前例など聞いたことがありません。インフレとハイパーインフレは発生する危険度もメカニズムも異なると考えるべきです。

デフレが解消しなければ新産業の育成も規制緩和も失敗する

新産業の育成も規制緩和も必要でしょう。しかしそれはデフレ不況の下では極めて低い成果しかあげることはないでしょう。新産業によりどれほど魅力的な商品やサービスが生まれても、国民所得が向上しなければそれらは売れることがありません。売れたとしても従来商品と単にシーソーゲームをするだけです。また規制緩和で生産性が向上すれば、逆に人手が余るために失業率が上昇し、国民所得が減少して景気がますます悪化してしまいます。それらの余剰労働力を吸収するための新産業は、好景気でなければ成長できません。新産業の育成も規制緩和も必要ですが、それでデフレを克服することは不可能で、逆にデフレを脱却した後にこそ、それらを強力に推進する意味があるのです。

(つづく)