2010年9月5日日曜日

(9)おカネが増えなければ経済は成長しない

はるか昔から、おカネを増やすことで国の経済が成長してきました。先におカネを増やすことで後から経済成長が付いて来る。だからこそ銀行は投資によって利益を揚げることができるのです。まずおカネありき。逆におカネが増えなければ経済は成長しない。なぜでしょうか。

身近な視点で考えて見ましょう。ある企業が100円の商品を10個生産していたとします。生み出される価値は金額換算で総額1000円になります。この企業の商品を買い取るために必要なおカネは総額で1000円です。世の中のおカネが1000円あればこの企業の商品はすべて売れますから問題ありません。生産性が向上し、企業の生産量が20個に増加したとします。生み出される価値は2000円になります。ところが世の中のおカネが1000円しかなければ、せっかく増えた商品は売れ残ってしまいます。これでは企業は不幸ですし、人々買える商品の量が増えずに不幸です。そのため、おカネが増えなければ、たとえ企業の生産力が増える潜在的な余力があったとしても、それを発揮することはありません。しかし、そこでたとえば国が1000円のおカネを作って人々に配給したら、世の中のおカネが増え総額が2000円になります。そうすることで、企業の生産した商品がすべて売れるし、人々も今までの二倍の商品を手に入れることができるようになります。生産力の成長に合わせておカネが増えなければ経済は成長できないのです。日本にどれほど生産力・労働力があっても、おカネがなければ決して経済は成長しません。

私たちは個人的な体験を通じて、生産活動や労働の結果としておカネが生まれるような錯覚を持っています。しかし実際にはおカネの方が先にあって、生産活動はあとから付いてきます。ニンジンと馬の関係と良く似ています。何も無い状態で馬を走らせることは難しいですが、鼻先にニンジンをぶら下げてやると走り出します。同じように、経済においては「投資」つまりおカネを先に投入してやることで、生産設備を購入し、労働者を雇用し、生産体制を整えることができるようになります。つまり、先におカネを作り出す必要があるのです。

経済成長するためにはおカネが必要になります。しかもおカネが先に必要なのです。おカネを増やすことで、ニンジンと馬の関係のように、経済がおカネに引っ張られて成長します。歴史的には銀行がこの役割を果たしてきました。銀行は帳簿上でおカネを作り出し、それを実業家に貸し出します。この時点では銀行は何の価値も生み出して居ません。帳簿上でおカネを作っただけです。無からおカネをつくるだけ。そもそもおカネに価値はないのです。ところが実業家がそれを使って工場を建設し、商品を製造することにより価値が生まれるのです。すなわち、おカネには無から価値を生み出す力があるのです。

おカネは無から価値を生み出す力がある。これがおカネのすごいところです。銀行はこれを利用して利息を得てきました。経済の成長に伴って必要になるおカネは増えるのですが、それを先に作って貸し出すことで利息を得るのです。そして銀行は民間企業ですから利益がすべてに優先します。ということは、銀行の作るおカネは、利息を得ることができないなら誰かに貸す事はできません。つまり経済成長が低下した今の日本ではおカネを貸しても利息が取れませんから、貸すことはできないのです。中国のように、まだまだ成長余力のある国に投資したほうが確実に利益になります。日本の世の中には、環境や高齢化、少子化などに伴い、まだまだ必要とされる設備も商品もサービスもあるし、生産設備も労働力も余っているにもかかわらず、利益にならないから作らない。おカネが無いから作れない。利益を得られなければ、何もできない社会なのです。これは潜在生産力を活用せずただドブに捨てているようなもので、非常に非効率的で非生産的です。利益中心のおカネの使い方を改めなければ、毎年何十兆円もの生産力が無駄に消えていくだけなのです。

銀行ができないなら、政府がやればよいではないか?そうです。 利息を得る必要の無い政府が行えば良いのです。銀行は民間企業ですから利益が基準です。非営利組織なら利益ではなく、人々の幸福度を基準におカネを使うことが可能です。最も大切なことは、通貨循環の量を安定させ、経済成長余力にあわせて通貨の量を増やしてゆくことです。それを政府が行えば良いのです。そしてそのおカネを利用することで将来の社会が必要とするもの~たとえば、新エネルギー設備(太陽・風力・波力・地熱などの発電設備)、老人用の施設、海洋食糧生産設備など~をどんどん作り出すことで、環境問題にもエネルギー問題にも高齢化社会にも食糧問題にも対応できる社会資本を充実させることが出来るのです。おカネを増やすと言っても、もちろん限度があります。経済の成長余力を上回る勢いで通貨を増やしても、生産能力が追いつかなくなり、インフレを引き起こす可能性があるからです。政府がおカネをコントロールすることは簡単ですので、その心配は無いでしょう。

経済成長するためにはおカネが必要になります。しかもおカネが先に必要なのです。そして今まではその役割を民間銀行の作り出す「信用創造」に依存してきました。その結果、世界は幾度と無くバブルと不況を繰り返すだけで、そのたびに無関係な人々が巻き込まれて資産を失い、膨大な不幸を生み出してきました。これが理想的な金融システムなのでしょうか?

政府が民間銀行におカネ作りを丸投げすることの問題は、ノーコントロールだという点にあります。民間企業である銀行は収益が最優先ですから、必然的に市場から要求されるがままにおカネを作って貸し出します。それは企業の宿命です。すると実体経済の成長を遥かに超える速度で借金が膨張しバブルが引き起こされ、それが限界まで膨らむとやがて破裂して、急激におカネが世の中から消えて無くなる。銀行は作り出したおカネの担保として人々から不動産などを回収できるから被害は少ないものの、無関係な多くの人々は一方的に巻き込まれて資産を失うことになる。おカネの供給はきちんとコントロールしなければならないのです。そのために日本銀行があると多くの人が信じていますが、日本銀行があっても、1990年頃のバブルはコントロールできす、逆に最近はデフレがコントロールできません。日本銀行にはその能力が無いのです。

政府がおカネを直接きちんと管理して通貨の安定的な供給を直接行うべきなのです。通貨は民間銀行が好き勝手に供給すべきものではなく、公共のものであり、政府が管理すべきものなのです。