2012年9月2日日曜日

「成熟社会」という欺瞞

「今の日本は成熟社会だ、だから成長しないのは当然だ」という話がマスコミから流されている。だが本当に日本は成熟社会なのだろうか?単に成長できない事を「成熟した」と言っているに過ぎないのではないか、むしろ、成熟社会という言葉のイメージを利用して日銀や政府の無策を正当化しているに過ぎないのではないでしょうか。

<あきらめの支配する無気力な「成熟社会」>

 もちろん成熟社会という考えが間違いだとは思わない。しかし問題はその言葉のイメージを用いて「人々が貧しくなるのは仕方が無い」「格差が生まれるのは仕方が無い」というような、社会的問題の発生を「不可避なもの」と思い込ませ、人々に諦めさせようとするネガティブな姿勢が日本をおかしくしていると思われるのです。

諦めの状況に置かれた人々は、努力が無駄に感じられ、無気力となり、受動的で、自ら生み出すより与えられるものを待つようになります。これは成熟社会ではなく、単にあきらめが支配する堕落した社会にすぎません。生活保護が蔓延し、失業者が溢れ、年間自殺者が3万人もいる社会のどこが成熟社会なのか? 

成熟社会とは社会の一つの行き着く先として、人々が幸福に生活できる状態に達した社会をいうべきであって、今の日本が成熟社会などという主張は欺瞞にすぎません。単に停滞し、ダメになった社会なのです。その欺瞞を順にみて行きましょう。 

<GDPは成長しない、だから貧しくなるのは仕方が無い?>

 成熟社会では、GDPが成長しないのは当然でしょう。GDPは国内で生み出される財の総量ですが、労働人口が減少を続ければ生み出される財の総量が減少傾向に向かう事は明白です。官僚もマスコミもこの段階で諦めて「思考停止」するようです。実に情けない話ですね。

 GDPが増加しなくとも国民は豊かになれます。なぜならGDPは総額に過ぎないからです。私たちの生活が豊かになるかどうかは国民一人当たりのGDP、つまり一人一人が産み出すことの出来る財の量で決まるからです。人々の生産性を高め、失業している人に労働の機会を与える事で、国民一人一人の生産力は高まります。ですから国民に対して「一人一人の生産性を高めればGDPが成長しなくとも大丈夫だ!」そのようなビジョンを示す事が大切なのです。国民のモチベーションを高める必要があるのです。ところがその様な着想がまったくない。

「日本は成長しない、もうダメ」みたいな論がマスコミから流布される。そのために人々は無気力になり働く意欲を失います。 

<人口減少・高齢化は止まらない、だから増税は仕方が無い?>

 今の日本では、人口減少・高齢化は当分続くかも知れません。より少ない労働人口で高齢者を支える必要に迫られるのは当然です。官僚もマスコミもこの段階で諦めて「思考停止」するようです。実に情けない話ですね。

 増税などしなくても高齢者を支えられます。厚生労働省の予測する労働人口の推移を見ると確かに労働人口が減少を続けるのですが、実際には人口が減っても、生産性の向上により一人当たりが生み出す財の量が増加する事で、より少ない人数で高齢者を支える事が可能となります。一人一人の動労者をパワフルにするということです。ですから国民に対して「増税なんかしなくとも、一人一人の生産性を高めれば高齢者を支える社会ができるぞ!」というビジョンを示し、国民の奮起を促さねばならないのです。ところがその様な鼓舞はまったくなし。

「成長しないに決まってるから増税せよ」みたいな論がマスコミから流布される。人々はどうでもよい気持ちになり、努力しようとする意欲を失います。

 <心の時代だから成長しなくても豊か、だからこのままで良い?>

 成熟社会では、物質的な満足ではなく精神的な満足を求めるようになるとの論はある意味で正しいでしょう。しかし心の時代に年間自殺者3万人とはどういうことなのか?OECD諸国の中で、貧困率がアメリカに次いで高い15%もの数値を示しているのはどういうことか?官僚もマスコミもダンマリを決め込み、心の時代の価値観のお話をする。実に情けない話ですね。

 ワーキングプアの人々にとっては、心の時代などという呑気なことを言っているゆとりはない。つまり格差社会を是正しなければ「心の時代」など一部の人々の自己満足であり、成熟社会など絵に書いた餅に過ぎないのです。貧困は犯罪や疾病を増やし、社会を不安定化させ、経済活動にも悪影響を与えますし、当然ながら心の時代の指標とさせる人々の幸福度も下げてしまうでしょう。

心の時代なら必要以上のおカネはいらないはずです。ですから「おカネを貯め込んで使わない人々から「資産税」として分けてもらいましょう!」。そういうと、とたんに大騒ぎになるでしょう。心の時代といいながら実はウソなのです。人間はエゴの塊です。だから課税して再分配するのは至難の業です。

ですから国民に対して「本当の成熟社会のために格差を是正しましょう、そのためには増税で再分配するのではなく、名目成長すれば良いのです!」という解決策を力強く提示する必要があるのです。名目成長とはおカネの量を増やしてカネのめぐりを良くする事です。するとおカネの行き届かなかった人々にもおカネが回るようになります。もちろん、高額所得者への課税強化と再分配で格差を是正するのか、それとも名目成長で格差を是正するのか、そのどちらでも可能なのですが、官僚も政治家も何ら国民にビジョンを示しません。

「貧困層への生活保護はばら撒きだ」といい、おカネを増やせば「インフレ地獄になる」というだけで、結局は格差是正の出来ない理由をマスコミが流布しているだけ。人々は絶望してやる気を失い、困難に挑戦しなくなります。 

 <言葉だけが踊る「成熟社会」は欺瞞>

 結局のところ「成熟社会」という言葉は「成熟社会だから○○○○なのは、仕方が無いんだよね」という文脈で使われる、つまりいいわけの便利な道具として使われているにすぎません。こんな間抜けな話をマスコミが振りまいていて、いったい誰がやる気を出してリスクを負って挑戦しようとするでしょうか?

もし本当に成熟社会を語るのであれば、暗い、陰鬱とした成熟社会ではなく、明るく、活気に満ちた成熟社会でなければなりません。そのような前途の希望を信じる信念こそが政治にとっては最重要であり、そのためのビジョンを示す事が政治家の使命なのです。


ネガティブな言い訳など聞きたくない。
アグレッシブに未来を掴み取る方法を示せ。
それが国民のモチベーションを高め、
日本を劇的に変える。