はじめに
昨今、新聞を開き、テレビのスイッチを入れれば、財政再建の話や消費税増税の話を聞かない日はほとんどないでしょう。政府の借金(国債の発行残高)が国民1人当たり800万円を上回り、このままでは財政が破綻すると騒がれています。2019年に予定されている消費税の10%への増税だけでなく、さらにその先も消費税を増税し続けなければならないという。その一方で景気回復は足踏みの状態であり、財政支出の拡大を抑えるために公的な予算が削減され、トンネルが崩落するなどインフラは老朽化し、教育科学振興に振り向ける支援も伸び悩んでおり、今でこそノーベル賞の日本人受賞に沸いていますが、将来的にはそうした日本のテクノロジーを支える学問も衰退するのではないかと心配されています。
日本を良くするためには、財政出動して老朽化したインフラを整備し、地震や台風といった災害の多発する日本における安全性を高める、あるいは政府が教育や科学の分野を支援して、日本の将来を支える人材を育成し、技術の開発を促進する必要がある一方、そうした財政出動を行なえば行なうほど、政府の借金が増大し、庶民に対する増税が強化されることになる。そうした増税は、庶民の消費活動を低下させて、ますます景気を悪化させてしまう。こうした状況に対して多くの人が焦燥感を覚えているでしょう。そのため多くの人々が将来への不安を持ち、おカネが貯め込まれるばかりで消費は増えません。
しかし、新聞もテレビも、政治家も経済学者も、こうした状況に対して有効な手立てを提案できません。その多くは「財政再建を優先させて、人々に痛みを与える」あるいは逆に「財政再建を放棄して、人々を救う」という、どちらかです。つまり「財政再建」と「人々の幸福」のどちらかを取って、どちらかを捨てるという二者択一の方法論なのです。本当に二者択一しかないのか。その両方を同時に実現することはできないのか?ある評論家は「今日の政治家には、国民に痛みを伴う改革を受け入れさせる努力が必要だ」と言いますが、そうでしょうか。本当に必要なのは「財政再建と人々の幸福を両立させるアイディアを作り出す努力」なのではないでしょうか。
本書では、「財政再建」と「人々の幸福」を両立させる一つの方法として、通貨制度の改革を提案しています。それを理解するには、今現在の私たちの社会の「おかねのしくみ」を正しく知る必要があります。残念ながら新聞やテレビに登場するおカネの話は極めて単純化されており、それだけではおカネの仕組みを理解することはほとんどできません。例えば、もし読者の方が「マネタリーベースとマネーストック」の関係性をスラスラと答えられないのであれば、今日のおカネの仕組みは何も理解していないことがわかります。マネタリーベースとマネーストックは現代の通貨制度の根幹的な知識です。
従いまして本書では、今日のおカネの仕組みである信用創造や準備預金制度について触れ、それらが政府の借金(国債)と深く結びついている状況を説明します。また、そこから、政府の借金問題を根本的に解決する方法を提案し、同時に消費税の増税が不要であること、プライマリーバランスの考え方も不要であることをご理解いただけるよう筆を進めました。お話の内容はかなり難しいテーマかも知れませんが、できるだけ容易にご理解いただけるよう、対話形式にするなど工夫してみました。読者のみなさまのご参考になれば幸いです。
2018.10.10