2020年9月12日土曜日

消費税のパラドックス

 財務官僚は愚かです。「消費税は社会保障のための恒久財源になる」と言ってます。彼らはおそらく短絡的に、こう考えているのでしょう・・・「財源を所得税にすると、高齢化により労働人口が減少し、すなわち納税者数が減少し、税収が減る。消費税なら労働者だけでなく高齢者や未成年からも徴税できるので、労働人口が減少しても納税者数が減ることがなく、税収を確保できる」と。まさに愚かである。

 直接税(所得税)であろうと間接税(消費税)であろうと、労働人口が減少すれば税収は減少する。なぜなら、税の出どころの大部分は、労働者の賃金だからである。

 そもそも家計に徴税して、それで社会保障(年金制度)を運用システムとは、どういうものか?シンプルなモデルで考えてみましょう。まず、年金生活者が居ない場合の経済を考えてみます。企業で労働者が働いて財を100生産したとします。仮に労働分配率が100%だとすると、労働者には100の賃金が支払われます。これにより、労働者は企業において生産した財100をすべて購入・消費することができます。おカネ100は企業に戻ります。

 さて、年金生活者がいる場合の経済を考えてみます。税の種類は結果的にどれでも同じです。何らかの税によって、労働者の賃金100のうち、30を政府が徴税します。その30を年金生活者に支給します。企業が生産する財は100でしたね。そこで、労働者は徴税後の所得である70のおカネを使って70の財を購入・消費し、年金生活者は年金である30のおカネを使って30の財を購入・消費します。これで生産された財100はすべて売れて、おカネ100は企業に戻ります。

 これがシステムの本質的な部分になります。そうでなければ、システムが成り立ちません。おカネが「企業→消費者→企業」のように循環しなければ経済が成り立たないからです。税制の種類にかかわらず「社会保障は労働者が負担する」という本質は同じであり、その出どころは労働者の賃金なのです。では、税制によって何が違うのか、と言えば、所得税の場合は賃金から徴税され、消費税の場合は買い物をする際に徴税されます。どの段階で課税されるかの違いだけであり、結果として、年金生活者に年金30を支払うためには、どのような税制においても、労働者から30の税金を徴収することになります。

 従って、直接税であろうと間接税であろうと、労働人口が減少すれば税収は減少することが直ちに理解できると思います。もし、そうでなければ、奇妙な現象が起きてしまいます。

 未来の社会においては、高齢化のみならず、人工知能や完全自動生産工場の普及によって、労働人口はますます減り続け、最終的にはすべての労働を機械が担うようになると、労働者数はゼロになってしまいます。この場合でも、財務省の理論によれば、消費税はすべての人が払うわけですから、税収が確保できる、と財務官僚は言うでしょう。さて、では、いったい誰が誰の社会保障を支えていることになるのでしょうか?これが破綻していることは、先ほどのようなおカネの循環を考えれば、直ぐにわかります。「企業→消費者→企業」というおカネの循環が存在していないのです。

これは「消費税のパラドックス」とでも呼ぶべき現象です。

 もちろん、これは労働人口の減少が究極まで進んだ状態ですから、実際にはそんなことは生じません。しかし、時代は労働人口が減少する方向に進むのは避けられないため、時間とともにシステムに歪みが生じてくることは確実でしょう。具体的には、消費税をいくら上げても税収が減少するようになります。最終的に労働人口がゼロに近づくにつれ、消費税率は無限大になり、税収は限りなくゼロに近づき、まあ、それ以前のどこかの時点で社会保障は破綻するでしょう。これが財務省の言う「恒久財源」の正体です。

消費税を財源とする社会保障制度は、将来において必ず破綻する。

 では、なぜ消費税に固執するのか。消費税は強制的に物価を引き上げ、購買力を低下させる機能があります。ですから、年金生活者にも容赦なく課税することで、彼らの購買力を引き下げ、実質的に支給額を抑制するのと同等効果があると考えられます。つまり、年金は支給するが、そのうちの何割かを税によって吸い上げてしまうわけですから、消費税が増税されればされるほど、実質的な年金支給額は減少すると言えます。悪質な財務官僚の考えそうなことですね。