2021年11月13日土曜日

バブル経済を再評価せよ

2021.11.11

 マスコミや多くの識者は、バブル時代を思い出したくもない、全否定すべき時代のように語る人ばかりです。しかし少なくともバブル時代を経験したことのある人々ならわかるはずです。あの時代の方が、今より遥かに良い時代だったと。

 もちろん、バブル経済、バブルの時代をそのまま受け入れようという話ではありません。バブルと同じことを今日の日本に引き起こせば良いわけではありません。そうではなく、バブル時代の「悪い事」を繰り返すことなく、「良かった事」を今の時代に再び取り戻そうという話です。マスコミや識者のように、短絡的にバブルを悪いものとしてあの時代を全否定するだけでは、何も学ぶことはできないのです。では、当時の日本経済はどんな状況だったのでしょうか。

<バブル時代の日本>

・世の中にカネが溢れていた。何より国民がおカネを持っていた。

・消費意欲が旺盛で、高級品がばんばん売れ、景気は絶好調だった。

・企業利益も増大し、企業の投資意欲も旺盛だった。

・非正規雇用(アルバイト)の所得が正社員より良かった。

・子供の貧困など、貧困問題は少なかった。

・インフレも低い水準だった。

・財政赤字の問題は、無かった。

・「JAPAN AS No.1」と呼ばれた。

 では今日、日本経済が復活できない構造的な要因と指摘されていることが、当時はどうだったのか見てみましょう。

<バブル時代の社会構造>

・賃金は年功序列だった。

・雇用は終身雇用制だった。

・規制は緩和されていなかった。

・グローバル化は進んでいかなった。

・それでも経済が絶好調で「JAPAN AS No.1」と呼ばれた。

 つまり、今日、マスコミや識者がしたり顔で指摘する「日本の悪い点」がすべて、当時の日本社会に装備されていた。にもかかわらず、「JAPAN AS No.1」と呼ばれたほど経済が絶好調だった。これは何を意味するのか。こうした事実に、ほとんどのマスコミや識者は目を背け、口を閉ざします。では、当時と今では何が決定的に違うのか?

・バブル時代には、世の中におカネが溢れていた。

・国民がみんなカネを持っていた。

 これは、マネー供給のグラフを見れば一目瞭然です。


 マネーの供給が劇的に減少したことで、経済が一気に縮小したのです。年功序列とか岩盤規制とか高齢化とか、そういうことが原因で経済が縮小したのではありません。カネが世の中から消えた、そのことが不況と失われた20年の元凶なのです。だからこそ改革と称する方法、つまり、世の中のカネを増やさずに、他の方法で景気を回復させようとする考え方そのものが、大間違いだと確信を持って言えるのです。何を差し置いても、まず最優先に世の中にカネを溢れさせ、国民におカネを持たせなければならないのです。

 しかし、ここで大きな問題があります。どれほどバブル時代が良かったとしても、おカネが溢れることが良かったとしても、それが崩壊してしまったら意味がない、それどころか、かえって大問題を引き起こすことにも成りかねない、という点です。バブル経済の致命的な欠陥は、ここにあります。

 従って、崩壊しない方法で、世の中におカネを供給し続ければ良い、との結論を得ます。

 そんな方法はあるのか?それを考える前に、まず、バブル時代には、なぜ世の中におカネが溢れていたのか?それが、なぜ崩壊するのか?それを理解しなくてはなりません。これは難しいことではありません。

 バブル経済は「バブル」という言葉の通り、資産バブル、すなわち、土地や株式などの資産の価格がどんどん上昇することで生じる好景気の事です。なぜ資産の価格が上昇すると、世の中におカネが溢れるのか?それは、企業や個人が「銀行からの借金によって資産の売買を行う」からです。企業や個人が自分の手持ちのおカネの範囲で資産の売買をするだけでは、資産価格はそれほど値上がりしません。手持ちのおカネの量は限られているからです。ところが銀行から借金したおカネを利用して売買を行なえば、取引に利用されるおカネの量が増えることで、資産価格は大きく上昇します。

 今日の金融制度(準備預金制度)においては、銀行は保有している預金を貸し出すわけではありません。銀行は新たにおカネ(預金)を発行し、それを貸し出します。従って、企業や個人が銀行から借金をすればするほど、世の中のおカネの量が増え、そのために世の中におカネが溢れます。

 ということは、世の中におカネが溢れる一方、企業や個人の借金もどんどん増え続けることになります。バブル経済においては、資産の価格がバブルになるだけではなく、借金もバブルのように膨らみ続けます。そして、中央銀行が金利を引き上げると、それら膨大に膨れ上がった借金の金利を返済できなくなり、経済は一気に崩壊します。ですから、資産価格の上昇によっておカネを増やすことは、非常にリスクが高いことがわかります。では、企業や個人の借金を増やすことなく、世の中のおカネを増やす方法はないのでしょうか?その方法は大きく二つあります。

「世の中のおカネを増やす方法」

①政府がおカネを発行する

②永久国債を日銀が引き受ける

①政府がおカネを発行する:最もシンプルな方法は、政府がおカネを発行することです。これは政府貨幣(政府コイン)と呼ばれます。今日においても、500円や100円のような硬貨は、政府貨幣に該当します。ただし、おカネとしては補助的に使われているに過ぎず、ほとんどのおカネは政府ではなく日本銀行が発行しています。これを法改正などによって、政府が高額なおカネを発行できるようにすれば可能です。

②永久国債を日銀が引き受ける:あるいは政府が永久国債を発行し、それを日銀が直接に引き受ける方法です。なぜそんな面倒な事をするのか?現在の金融システムにおいては、誰かが借金をしなければおカネは供給されません。先ほどご説明したように、銀行はおカネを新たに発行して貸し出しを行いますから、おカネを発行するにはだれかが借金しなければならないわけです。ですから、政府がおカネを世の中に供給するには、国債を発行する必要があるわけです。日銀が国債を買い取る際には、日銀がおカネを発行して買い取りますので、その代金(現金)を政府が受け取れば、財政支出を通じて国民におカネを配ることができます。

①政府がおカネを発行する:この方法であれば、バブル経済のように崩壊するリスクはありません。なぜなら、誰の借金も増えないからです。バブル崩壊の原因は、借金が返せなくなるからです。一方、政府貨幣であれば、借金は一円も増えませんので、崩壊しません。

②永久国債を日銀が引き受ける:この方法は、国債という、いわば政府の借金がどんどん増え続けます。バブル時代のように景気が良くなり、日本経済は復活するかもしれませんが、政府の借金が返せなくなって崩壊する心配はないのでしょうか?その心配は皆無です。永久国債とは、返さなくてよい国債だからです。もちろん、返さなくてもよい借金など、普通の銀行は引き受けるわけがありませんが、政府の銀行である日本銀行なら可能です。なぜなら民間銀行と異なり、日銀は通貨の供給をコントロールすることが使命であって、おカネを儲ける必要はないからです。日銀は民間企業ではないため、経営上は損をしてもまったく問題ありません。なにしろ、自分のところでおカネを発行できるのですから。

 このように、バブルではない仕組みによって、バブル時代と同じように世の中におカネを溢れさせることができれば、そしておカネを国民に十二分に行き渡らせることができれば、日本経済が大きく改善することは疑う余地もないでしょう。つまり、おカネを発行して、それを国民に配る、ヘリコプターマネーと呼ばれる政策です。最初に申し上げたように、年功序列、雇用の流動化、規制緩和、グローバル化、そういう話より、まず最優先に取り組むべきことがここにあります。

 ちなみに、アベノミクスによって推進されてきた日銀の量的緩和政策はおカネを直接に増やす政策ではありません。おカネを増やすための動機を刺激する間接的な方法です。そのため、実際、おカネはあまり増えていません。しかもこの方法は個人や企業の借金を増やす方法論であり、バブル経済におけるおカネの増え方と本質的に同じです。そのため、資産バブルが発生しやすく、その証拠に株価水準が実体経済に比べて高くなっています。ですから今日行われている量的緩和政策ではなく、ご説明した二つのどちらかの方法によって、個人や企業の借金を増やすことなく、直接的に世の中のおカネを増やしてやる必要があるのです。

 バブル崩壊直後にこれをやっていれば、失われた20年は無かったはずです。しかし実際には20年以上の年月が失われてしまい、その間に、日本の産業構造はバブル崩壊当時とは大きく違うものに変化してしまいました。20年を経て変化したのですから、この20年の歳月を取り戻し、正常な経済の姿を取り戻すには、やはり5年や10年といった期間が必要であり、その間に、様々な矛盾や課題が発生するでしょう。しかし、それは乗り越えるべき課題です。そうした課題を恐れて手をこまねいていれば、日本はさらに20年を失うことになるでしょう。

(補足)

 バブル時代の当時と今では状況が違う、今は少子高齢化だ、昔は若い世代が多かったから景気が良かったのだ、という人がいるかも知れません。その場合は、きちんと分析的に考えてほしいと思います。確かに今と昔は環境が異なります。しかし、バブル景気が崩壊した理由は、おカネの供給量が激減したためであり、これは事実です。このことから社会構造や高齢化に関わらず、おカネの供給量が経済活動において決定的に重要であることは明白です。この小論の要点はそこにあります。そのうえで、仮にバブル時代のように十分なおカネが供給されたとしても、バブル時代と同じ経済状況に戻るとは言えません。すでに失われた20年が原因で、日本の産業構造が変化し、少子高齢化も進展しているからです。ですから、改革や成長戦略がまったく必要ないという話ではありません。しかし、おカネの供給量、国民の購買力が経済活動において決定的に重要であることは、今も昔も、何も変わらないのです。