2021年8月6日金曜日

二階建て金融システムのご提案

 2021.8.5

 現在の金融システムは、基本的に通貨供給を市中銀行の信用創造のみで行う方法です(日銀が市中におカネを供給しているわけではない)。これは、市中銀行から通貨を家計や企業へ貸し出すことによって通貨供給を行い、貸し出す通貨の量を日銀の金利政策によってコントロールします。それに対し、こうした金利政策による通貨供給に加えて、日銀・政府による通貨供給=ヘリマネを併用し、「金利政策(変動供給部分)+ヘリマネ(固定供給部分)」の二階建て金融システムとすることで、デフレを完全に脱却するとともに、金利を正常化し、金利政策の有効性を高める方法をご提案します。このヘリマネの部分は、国民配当(少額ベーシックインカム)として国民に分配されることになります。

 日本経済をデフレから脱却させるために、2012年の安倍政権の発足と同時に、日銀による金融政策としてリフレ政策が採用されました。しかし、日銀の大規模金融緩和によっても、世の中のおカネ(マネーストック)はあまり増加せず、日本は完全にデフレから脱却できず、目標インフレ率2%に達する気配もありません。マクロ指標の推移から見て、リフレ政策に効果が無いとは言えませんが、あるとしても効果は不十分であり、景気回復のペースも、まったく緩慢であると言わざるを得ません。

 従って、もっと安定的かつ確実に世の中におカネを供給する仕組みを構築する必要があります。それが「二階建て金融システム」です。これは、これまでと同様に、市中銀行の信用創造によって世の中におカネ(マネーストック)が供給する仕組みに加えて、固定的に一定率のおカネ(マネーストック)を市中銀行の信用創造をへずに、日銀(あるいは政府)が直接に世の中に供給するものです。前者は日銀の金利政策によって変動する「変動部分」であり、後者は一定率で市中に直接供給する「固定部分」です。つまり、

  • マネーストックの供給=変動通貨供給+固定通貨供給
  • マネーストックの供給率=金利政策による供給率+固定供給率

 ヘリマネによる通貨供給が通貨供給のベース部分になり、その上に金利政策による通貨供給が上乗せされる形になります。これまでは、ヘリマネを景気対策のための補助的な手段と考え、ヘリマネを変動的に利用しようと考えるケースが多かったのですが、そうではなく、ヘリマネを固定化して通貨供給のベースにするわけです。

 例えば、固定供給率を4.5%とすると、仮に金利政策によるマネーストックの供給率が2%であった場合、合計のマネーストックの供給率は6.5%となります。そして、仮にデフレ(均衡金利マイナス)であって、金利政策による通貨供給がプラスマイナス・ゼロであったとしても、固定供給率の通貨供給は確実に可能となります。二階建て金融システムには、次のようなメリットがあります。

①早期にデフレから脱却が可能になると同時に、再びデフレに逆戻りするリスクを減らすことができます。

②仮にバブルが崩壊した場合でも、通貨の固定供給がある為、信用収縮による実体経済への悪影響を抑えることが可能になります。

③インフレ傾向となるため、金利の正常化(プラス金利)が実現し、金利政策の有効性が高まる(デフレでは金利政策の有効性が低い)。

④通貨の固定供給は、民間部門への貸し出しではなく、財政支出として供給されることになるが、これをすべての国民に平等に分配することにより、国民の所得を底上げし、内需を刺激することができる。

⑤民間部門の負債を減らすことができる。一般に企業の財務の健全性を高める。

⑥通貨循環量が増大し、税収が増加する。

 マネーストックの固定供給を行う方法としては、政府の発行する金融資産(政府コインまたは永久国債)を日銀の資産として計上することで、日銀内の政府当座預金を発生する。固定供給率は日銀が決定し、毎年見直す。仮に国民へ毎月3万円の給付を行うとすれば、通貨供給はマネーストックの4.5%となる。


補足

A)固定通貨供給について

 政府が通貨を供給することについては、フィッシャーらによってシカゴプランで主張されており、固定通貨供給については、フリードマンによってk%ルールで主張されており、新しいものではない。ただし、中央銀行による金利政策を併用するタイプ(二階建て)の考え方は、無いかも知れません。

B)インフレについて

インフレの心配は極めて低いと考えられる。過去の日本の統計(下図)を見ても、インフレ率が通貨の伸び率を超えたことはない。仮に固定供給4.5%+変動供給2%=合計6.5%であれば、せいぜいインフレ率は2%程度ではないかと思われる。

 



C)インフレが止まらなくなるのではないか

 変動供給は、金利政策によってコントロールされるので、インフレが止まらなくなる心配はない。金利政策は、通貨供給を増やす効果は弱いが、引き締めには極めて強力である。むしろ日本のバブル崩壊のように、引き締め過ぎる方が心配。あるいは、近年の日銀による量的緩和政策によって、市中銀行の保有する日銀当座預金が膨大に積みあがっているため、これが過度の信用膨張を引き起こすと心配するかもしれない。しかし、現在は1%程度と、極めて低く抑えられている預金準備率を引き上げることで、過剰な信用膨張を防ぐことができる。

D)世の中がおかねで、ますます「じゃぶじゃぶ」になるのではないか

 まず、これまでも世の中のおカネの量(マネーストック)はあまり増えていない。「じゃぶじゃぶ」というのは事実を無視したフェイクニュースであって、実際のおカネの伸び率は、バブル崩壊前の半分にも達していない(上図を参照)。金融緩和によって「じゃぶじゃぶ」に増えたのは、市中銀行の保有する日銀当座預金(マネタリーベース)だけである。仮に通貨供給を固定4.5%増やしたところで、通貨供給はバブル崩壊前の水準以下でコントロールできると思われる。