2018年10月30日火曜日

おカネがジャブジャブは堀の内側だけ

おカネの世界は、二重構造になっています。つまりマネタリーベースとマネーストックです。マネタリーベースは堀の内側、マネーストックは堀の外側。そして私たちは堀の外側に住んでいます。

堀の内側は、日本銀行、政府、市中銀行の世界、マネタリーベース(現金)で決済される世界です。例えば、日銀が現金つまりマネタリーベースを発行して市中銀行に貸し出す、あるいは、市中銀行間で現金をやり取りする、あるいは、政府が国債を発行して市中銀行がそれを買い入れる、それらはすべて現金ベースで行なわれており、私たちが利用するいわゆる「銀行預金」は使われません。その堀の内側で通貨を供給しているのは日銀です。

堀の外側の世界は、家計や企業の世界です。ここはマネーストック(主に預金)で決済される世界です。労働者は賃金として銀行の預金を企業から受け取りますし、企業の間でもほとんどの取引は銀行の預金を通じて行なわれます。この銀行預金は現金と同等に扱われますが、現金とは異なるものです。現金は日本銀行の信用創造によって作られますが、銀行預金は市中銀行の信用創造によって作られているからです。その堀の外側で通貨を供給しているのは市中銀行です。

そして、堀の内側と外側は直接繋がっていません。深い堀によって隔てられているのです。そして、その堀をまたいでその両側に立って、間接的に堀の内側と外側を繋いでいるのが市中銀行です。

堀の内側と外側は直接繋がっていません。そのため、堀の内側で、いくら日銀がおカネを発行しても、堀の外側のおカネは一向に増えません。しばしば「日銀がおカネをどんどん発行して、世の中のおカネが、じゃぶじゃぶになっている」「ハイパーインフレになる」と騒いでいますが、ちっともインフレになりませんね。その理由は、堀の内側がおカネでじゃぶじゃぶになっても、私たちが生活している堀の外側のおカネは増えないからです。

おカネがジャブジャブなのは、堀の内側だけ。

堀の外側のおカネが増えるには、堀の内側と外側をまたいで立っている市中銀行がおカネを発行しなければなりません。市中銀行がおカネを発行することを信用創造と呼び、これは市中銀行が誰かにおカネを貸し出すときにのみ機能します。つまり、誰かが市中銀行から借金をしなければ、堀の外側のおカネが増えることはないのです。

だから、堀の内側がジャブジャブなのに、堀の外側に住んでいる多くの人々の財布は、干からびているのです。新聞テレビは、決してそれに触れませんが。

おカネの世界は二重構造になっています。

堀の内側は日本銀行の支配する世界(マネタリーベース)、堀の外側は市中銀行が支配する世界(マネーストック)なのです。


おカネの世界の話なら、
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2018年10月26日金曜日

政府通貨発行と政府通貨制度の違い

「政府通貨の発行」と「政府通貨制度」は似ていますが違います。しかし、一般に同じような使われ方をするため、混乱が生じてしまいます。では、何が違うのでしょうか。

政府通貨とは、政府が発行する通貨のことです。今の日本で言えば「貨幣(硬貨)」、500円、100円、50円、5円、1円です。これらは日銀が発行しているわけではありません。日銀が発行する通貨は「銀行券」です。もし、政府が紙幣を発行するなら、これは「政府紙幣」になるでしょう。

政府通貨とは、基本的に、こうした貨幣、あるいは紙幣、あるいは電子通貨のようなものを指します。政府が発行する政府通貨は当然ながら「法定通貨」です。これを発行し、それを財源として政府が様々な政策を行なうことが可能です。これは「政府通貨の発行」です。

一方、今日、流通通貨(マネーストック)のほぼすべては、民間銀行の信用創造によって供給されています。これが銀行預金です。多くの人が誤解していますが、日本銀行の発行する銀行券および日銀当座預金(すなわち現金)は、家計や企業に直接流れてきません。日本銀行の発行する現金(マネタリーベース)は、あくまで信用創造の元本のような形(正確には元本ではない)で使われているにすぎません。実際には民間銀行が通貨発行を行なっています。

では、どうやって民間銀行がおカネを発行するのか?家計や企業に預金を貸し出す際に発行されます。これが信用創造です。つまり、無の状態から、銀行の帳簿上に、資産として「貸し出し債権」、負債として「預金」を同時に発生させるだけです。この預金が家計や企業に貸し出されます。

ですから、貸し出しの際に、民間銀行が保有している(誰かから預かっている)現金を貸し出すわけではありません。現金は貸し出さず、新たに発行した預金を貸します。ですから、原理的に言えば、民間銀行は無限に預金の貸出が可能です。

ただし、それを放置すると世の中がおカネだらけになって「ハイパーインフレがー」になるでしょうw。そこで、今日の銀行制度である準備預金制度においては、銀行の帳簿上の預金金額に対して、その一定割合の現金を日銀当座預金に準備金の名目で積むことが義務付けられています。この一定割合のことを「法定準備率」といいます。この準備率に応じて、銀行は、自らが保有する現金の10倍~100倍の預金を発行して、貸し出すことが可能になります。

政府通貨制度は、こうした民間銀行の信用創造を停止することがその骨格になります。ですから、民間銀行は預金を発行することができなくなります。すると、銀行は保有する現金の量の範囲内でしか貸し出すことはできなくなります。

例えば、民間銀行が100万円の現金をあずかって、これを保有しているとします。銀行が貸し出しを行なう場合、これまでは、預金として1億円を発行し、1億円を貸し出すことができました。そのため、世の中のおカネは9900万円増えるわけです。一方、信用創造を停止すると、100万円の現金しか貸し出すことはできなくなります。

これは、普通の貸し借りと同じです。100万円を保有しているAさんがBさんに100万円のおカネを貸す場合、AさんがBさんに貸せるのは100万円までです。これが普通です。ところが、銀行は100万円しか持っていないのに、1億円を貸すのです。そのため、世の中のおカネの量が銀行の恣意的な判断によって勝手に増えたり減ったりします。

政府通貨制度では、民間銀行の信用創造を停止することが核になります。そうすると、世の中のおカネが増えなくなってしまいますので、必要に応じて、政府が通貨を発行して供給することになります。銀行は預かっている現金の量の範囲でのみ、おカネを貸すことになります。したがって、世の中のおカネの量が勝手に増えたり減ったりすることはなく、政府の供給するおカネの量、税金によって回収されるおカネの量によってコントロールされます。

信用創造を停止すると、銀行の貸し出すためのおカネが足りなくなるのではないか?と思われるかも知れませんが、そんな心配はまったくありません。銀行が貸すおカネが足りないとすれば、それは世の中に供給されているおカネの量が足りないだけの話なのです。もし、必要十分なだけのおカネを政府が政府通貨として供給すれば、それらは家計や企業から銀行に預けられ、銀行の保有する現金の量が今よりも大幅に増加するからです。そうすれば、貸し出すおカネが不足する心配はありません。

以上のように、「政府通貨を発行する」とは、民間銀行の信用創造はそのまま、政府が政府通貨を発行することであり、「政府通貨制度」は、民間銀行の信用創造を停止し、政府が政府通貨を供給すること、という違いがあります。

なお、ソブリンマネーとは政府通貨制度を指しますが、単に政府通貨を指している場合もあり、非常に混乱していますので、ソブリンマネーや政府通貨の話題の際には、「民間の信用創造をどう扱うか」に注意する必要があると思います。

2018年10月23日火曜日

財政赤字の真の原因は

財政赤字の真の原因は、通貨発行権を有するはずの政府が通貨を発行せず、国債を発行して財源を確保することにあります。わざわざ財政赤字にしているのです。

国民には通貨を発行する権利があります。ですから、国民の代理人としての政府に、通貨の発行権があるのは当然です。ですから、もし、公共のためにおカネが必要なのであれば、おカネを発行して財源とすることは、制度として正しいでしょう。法的に言っても、国会で法案を通せばいいだけです。

もちろん、限度があるのは当たり前です。毎年200兆円も300兆円もおカネを発行すれば、高インフレになってしまいます。しかし、毎年、財政に不足する程度、例えば20兆円や30兆円のおカネを発行したところで、インフレの心配はありません。

その理由は簡単で、国債で通貨を調達しても、通貨発行で通貨を調達しても、同じ金額だけ世の中のおカネ(マネーストック)が増えるからです。ですから、たとえば、毎年発行されている30兆円の国債を発行する代わりに、30兆円の通貨を発行しても、世の中のおカネは同じだけ増加します。これはバランスシートから明らかです。

ただし、通貨発行で通貨を調達すると、マネタリーベースが同時に増加することになります。これは現在日本銀行が行なっている量的緩和(国債の買い入れ)と同じことです。ですから、市中銀行からの貸し出しが増加し、マネーストックが増加することがあるかも知れません。これがインフレのリスクです。

しかし、日銀が300兆円のおカネ(マネタリーベース)を発行しても、2%のインフレにすらならないわけですから、30兆円程度の増加で「ハイパーインフレ」などに、なるはずがありません。

ですから、財源が足りないのであれば、通貨を発行すれば良いだけです。そうすれば、国債をこれ以上発行する必要はありませんので、財政再建もなんなく実現できます。もし、通貨発行による財源をプライマリーバランスに参入すれば、即、プライマリーバランスは黒字化します(もちろん、それはプライマリーバランスという指標が、そもそも無意味であることを示していますが)。

財政赤字の真の原因は、政府が通貨を発行せず、国債の発行によって財源を確保しようとすることにあります。


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2018年10月17日水曜日

消費増税は、最悪のタイミング

財務省は安倍首相から来年10月の消費増税を表明させることで、後戻りのできない状況を作って大喜びだろう。しかし、この消費増税は「最悪のタイミング」である。

最悪のタイミングといえば、直ぐに思い起こされるのが過去の消費増税である。3%の消費税が導入されたのが1989年。その後、バブル崩壊によってデフレ不況に突入し、日本は消費税と不況のダブルパンチとなった。1997年には5%への引き上げが実施されたが、その直後にアジア通貨危機が発生し、増税の負の影響が相乗効果となって、経済はみるみる失墜して、税収も減ることに。

まるで、絵に描いたように、
最悪のタイミングで増税を実施するのが財務省。

そして、今度の消費税率10%への引き上げは、すでに最悪のタイミングであることが明白だ。にもかかわらず、新聞もテレビも危機感がまったくない。むしろ増税を喜んでいるのかもしれない。どうして最悪なタイミングなのか?

東京オリンピック効果が終わるタイミングである。当然ながら、東京オリンピックのために行なわれてきた財政出動はすべて終わり、また、その1年後にはオリンピック開催に伴う来場者等の消費がなくなる。すっぽりと、需要がなくなるのだ。

そして、このところ激しさを増してきた米中貿易戦争の問題もある。これに関してはエスカレートするばかりで、解決の先行きはまったく見通せない。中国はメンツにかけても引き下がることはないだろうし、トランプ大統領の共和党が中間選挙で負けたとしても、この方針は代わらないだろう。それどころか、国内の支持を得るため、トランプ氏がますます強い措置を打ち出すことも考えられる。場合によっては日本に噛み付いてくる恐れもある。

何より最大の懸念は「資産バブルの崩壊」である。これまでの経済の歴史に照らしてみれば、資産バブルとその崩壊は必ず繰り返す。そして、資産バブルの崩壊は、中央銀行の金利引き上げによって、生じる。まさに、FRBが金利を引き上げ、日本銀行が新聞マスコミの緩和への批判に負けて、やはり緩和を縮小しつつある。つまり、カウントダウンが始まっているのだ。

このタイミングで、平気で増税を行なう財務省。
それを何とも思わない新聞テレビ。

これで日本の社会が良くなるとしたら、奇跡しかあり得ない。
国民こぞって神様にお祈りしよう。

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2018年10月15日月曜日

NHKマネーワールドは牛肉抜きの牛丼

NHKマネーワールド「借金に潰される」は期待はずれでしたね。マネーに詳しい人の大部分は恐らく不満足だと思います。なぜなら、マネーシステムについての説明がすっぽり抜け落ちているからです。

今日のマネーシステムの根幹は「信用創造による通貨供給」です。ですから、マネーについて考えるときは、まず信用創造を基礎として、考察を始めなければなりません。ところが、番組は市中銀行の信用創造を完全にすっ飛ばして、話を進めているのです。これではマネーに関する国民のリテラシーはいつまで経っても向上しません。子供だまし番組はやめましょう。

NHKはマネーシステムについて、詳しく説明した番組を作るべきでしょう。

今日のマネーシステムである準備預金制度はややこしいシステムですから、説明しても十分に理解できない人は多いかもしれません。しかし、だからといって報道しない、あるいは原型を留めないほど簡略化して説明したのでは、国民のレベルは上がりません。一般国民に「自分はまるでわかっていない」ことを自覚させることもまた、重要なのです。

また、複式簿記の考えもすっぽり抜け落ちています。バランスシートです。バランスシートもマネーシステムそして資本主義の根幹に当たります。それが抜け落ちているため、金融負債の話が出てくるくせに、金融資産の話が出てきません。つまり、金融負債と金融資産は対になって発生あるいは消滅する仕組みになっており、それをベースに考察をすすめなければ意味がないのです。負債だけ、あるいは資産だけみても意味がない。両者を同時に見なければならない、それが資本主義の常識です。

ついでに言えば、「おカネが消える」の回もあいまいでしたね。大部分の国民は「おカネ=現金=紙幣・硬貨」という認識をしています。日常の経験に基づいて判断するからです。しかし実際の現金は日銀当座預金も含まれ、日銀の信用通貨全般のことを指します。しかし、その説明がすっぽり抜けているので、キャッシュレス(紙幣・硬貨を使わない)のことを、おカネが消えると称しているのです。これでは、国民に誤解を植えつけるようなものです。

つまり、マネーワールドという番組は、マネーのもっとも重要なシステムの部分をまったくすっ飛ばしているので、この番組を見ても、マネーのことは何もわからないのです。視聴者を「わかったような気分にさせる」だけです。

まるで、牛肉抜きの牛丼を食べさせるようなものです。

NHKはマネーシステムについて、詳しく説明した番組を作るべきでしょう。

なお、マネーシステムを噛み砕いてわかりやすく、なおかつ、変に省略することなく説明した書籍(電子本)を新発売しましたので、ご購読いただければ幸いです。

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2018年10月13日土曜日

「財政再建は通貨改革でOK」を発売しました

新作「財政再建は通貨改革でOK」(電子書籍)をAmazonにて発売開始しました。そのなかから、はじめに、の部分を以下に掲載します。書籍紹介は本編サイトhttps://sites.google.com/site/nekodemokeizai/home/syoseki/zaiseisaiken_tuukakaikaku

はじめに

 昨今、新聞を開き、テレビのスイッチを入れれば、財政再建の話や消費税増税の話を聞かない日はほとんどないでしょう。政府の借金(国債の発行残高)が国民1人当たり800万円を上回り、このままでは財政が破綻すると騒がれています。2019年に予定されている消費税の10%への増税だけでなく、さらにその先も消費税を増税し続けなければならないという。その一方で景気回復は足踏みの状態であり、財政支出の拡大を抑えるために公的な予算が削減され、トンネルが崩落するなどインフラは老朽化し、教育科学振興に振り向ける支援も伸び悩んでおり、今でこそノーベル賞の日本人受賞に沸いていますが、将来的にはそうした日本のテクノロジーを支える学問も衰退するのではないかと心配されています。

 日本を良くするためには、財政出動して老朽化したインフラを整備し、地震や台風といった災害の多発する日本における安全性を高める、あるいは政府が教育や科学の分野を支援して、日本の将来を支える人材を育成し、技術の開発を促進する必要がある一方、そうした財政出動を行なえば行なうほど、政府の借金が増大し、庶民に対する増税が強化されることになる。そうした増税は、庶民の消費活動を低下させて、ますます景気を悪化させてしまう。こうした状況に対して多くの人が焦燥感を覚えているでしょう。そのため多くの人々が将来への不安を持ち、おカネが貯め込まれるばかりで消費は増えません。

 しかし、新聞もテレビも、政治家も経済学者も、こうした状況に対して有効な手立てを提案できません。その多くは「財政再建を優先させて、人々に痛みを与える」あるいは逆に「財政再建を放棄して、人々を救う」という、どちらかです。つまり「財政再建」と「人々の幸福」のどちらかを取って、どちらかを捨てるという二者択一の方法論なのです。本当に二者択一しかないのか。その両方を同時に実現することはできないのか?ある評論家は「今日の政治家には、国民に痛みを伴う改革を受け入れさせる努力が必要だ」と言いますが、そうでしょうか。本当に必要なのは「財政再建と人々の幸福を両立させるアイディアを作り出す努力」なのではないでしょうか。

 本書では、「財政再建」と「人々の幸福」を両立させる一つの方法として、通貨制度の改革を提案しています。それを理解するには、今現在の私たちの社会の「おかねのしくみ」を正しく知る必要があります。残念ながら新聞やテレビに登場するおカネの話は極めて単純化されており、それだけではおカネの仕組みを理解することはほとんどできません。例えば、もし読者の方が「マネタリーベースとマネーストック」の関係性をスラスラと答えられないのであれば、今日のおカネの仕組みは何も理解していないことがわかります。マネタリーベースとマネーストックは現代の通貨制度の根幹的な知識です。

 従いまして本書では、今日のおカネの仕組みである信用創造や準備預金制度について触れ、それらが政府の借金(国債)と深く結びついている状況を説明します。また、そこから、政府の借金問題を根本的に解決する方法を提案し、同時に消費税の増税が不要であること、プライマリーバランスの考え方も不要であることをご理解いただけるよう筆を進めました。お話の内容はかなり難しいテーマかも知れませんが、できるだけ容易にご理解いただけるよう、対話形式にするなど工夫してみました。読者のみなさまのご参考になれば幸いです。

2018.10.10



2018年10月12日金曜日

アマゾン最低賃金引き上げは労働者の勝利?

最低賃金水準が低すぎるとの労働者たちの批判を受けて、アマゾンは最低時給を15ドルに引き上げる決定をした。これを労働者の勝利と捕らえる人もいますが、本当にそうなのでしょうか。

もし、私がある大企業の経営者だったらどうするか?最低賃金を率先して15ドルに引き上げ、さらなる引き上げも検討する、と発表しますね。それで、世間の会社に対する評価が高くなりますし、ブランドが向上するかも知れません。社長個人の名前も売れます。売り上げの拡大が期待できます。

その一方で、機械の導入を進めます。もちろん、それは内緒w。仮に自給が30%引きあがったとしても、人工知能やロボットを導入することで30%の従業員を解雇すれば、利益率には影響しません。50%の従業員を解雇すれば、賃金を2倍に増やせますので「どうです、わが社は最低賃金を2倍にした、労働者のための会社でしょう」と、世間の喝采を浴びることが出来ます。

労働者たちは、企業に圧力をかけて高い賃金をもぎ取ったと、戦果に意気揚々かもしれませんが、労働者全体で見た場合、失業者が増える可能性があるのです。つまり、時代が変わったのです。

時代が変われば、やり方も変えなければならないと思います。労働者の賃金を上げる方法であれば、それは、労働の価値に依存しなければなりません。今や労働の価値がテクノロジーの進化に伴って、どんどん低下しているのです。企業VS労働者という古典的なミクロの構造ではなく、もっと大きな、社会システムのレベル、マクロのレベルで庶民全体の所得の向上を図る必要が出てきました。

労働組合や活動家は、旧来のような労働の枠組みを超えて、社会全体のシステムとして、所得の向上を目指すべき時代になったと思うのです。

2018年10月9日火曜日

ベーシックインカムの持続可能性

ベーシックインカムの支給額は、テクノロジーの進化に応じて、徐々に増額し続けるべきだと考えます。ところが、そんなことすると、ハイパーインフレになる、地球資源が枯渇して環境が破壊される、という極端な反論が必ず出てきます。しかしハイパーインフレになったり地球を壊すほどおカネを支給しろなどと言っていません。

支給額は「テクノロジーの進化に応じて」なのです。

インフレが生じるのは、需要に対して供給が不足するからです。テクノロジーが進化すれば、生産性が向上することにより供給力が増大します。供給力の増大に合わせて通貨の供給を増大させるなら、経済規模が拡大するだけであって、インフレ率は低く抑えられます。さらに、貯蓄によって通貨が退蔵されたしまう(貯めこんで使われなくなる)点も考慮すれば、それ以上に通貨は供給されるべきでしょう。

一方、テクノロジーの進化に伴って生産性が向上しても、資源が不足すれば供給力を伸ばすことは難しくなります。しかしこれもテクノロジーの進化に伴って徐々に解消されます。その一つはリサイクル技術です。資源を使い捨てていれば、やがて資源が枯渇することは明白です。ですから目標として100%リサイクルを目指す必要があります。

またエネルギー資源については、太陽光を主体とする再生可能エネルギーの利用技術の向上があります。太陽エネルギーは膨大であり、課題はそれを利用するための技術開発だけです。また希少資源に頼ることなく、ごくありふれた物質を資源として利用する、代替資源の技術も有効です。そこらへんにある石、雑草、空気中の二酸化炭素などを資源化するわけです。これにより利用可能な資源の量が増大します。

もちろん、こうした技術の開発には費用も時間も必要です。ですから、一足飛びにベーシックインカムの支給額を増やすのではなく、こうしたベーシックインカムの持続可能性を高めるための技術の進化のスピードを考慮しつつ増やす必要があるわけです。

また、人々の生活が十分に豊かになれば、それほどおカネを必要としなくなると考えられます。ですから長期的にみると、支給額の伸びは徐々に低下し、あまり伸びなくなるのは自然なことです。とはいえ、人々が浪費をしたり、資源を貯めこんだりするなら、必要とする資源に際限がありません。全人類が宇宙旅行などしたら、地球の資源はいくらあっても足りません。ですから、満足すること、足るを知ることも重要です。学校等でそうした道徳教育も大切でしょう。

それと同時に、世界の人口爆発についても考慮が必要になるでしょう。先進諸国では少子化がすすみ、人口は減少傾向にあるものの、アジアの一部の地域や、とりわけアフリカが急激に人口を増やしつつあります。そうした人々も生活の豊かさを求める権利はあるわけですが、爆発的に増加する人々の権利まですべて保障できるほどに地球の資源があるとは思えません。人口増加に歯止めを掛ける方法を早急に検討すべきでしょう。

ただし、短期的あるいは地域的に言えば、日本におけるデフレを解消して経済を活性化することを考えるなら、テクノロジーの進化や人口爆発まで考慮する必要は無く、当面はインフレターゲットを用いて、供給力と支給額のバランスを取ればよいでしょう。

ベーシックインカムの持続可能性については、拙著でも取り上げています。



2018年10月5日金曜日

将来世代へのツケが国民の貯蓄の元

「将来世代へのツケを増やすな」と主張する人がいますが、将来世代へのツケこそが今の国民の貯蓄の元になっています。つまり、将来世代へのツケを増やさなければ、国民は貯蓄を増やすことができないのです。

通貨制度を知らないと、何のことかわからないと思います。現代の通貨制度では、誰かが銀行から借金することによって通貨が発行されています(信用創造)。つまり、誰かが借金を増やさない限り、世の中のおカネは増えない仕組みになっています。

ですから、いま、家計の金融資産が1800兆円あるとされますが、それは誰かの借金、たとえば、政府の負債(国債)1000兆円によって発行されたおカネです。国債とは「将来世代へのツケ」ですね。つまり、将来世代のツケが、めぐり巡って、私たちの貯蓄になっているのです。

ですから、私たちが貯金を増やしたいと願うならば、将来世代のツケを増やさねばならないのです。逆に言えば、将来世代のツケをなくしたいのであれば、私たちの貯蓄の大部分を消し去ってしまう必要があるのです。

なぜ、こんな無茶苦茶な話になるのか?
それは、借金によっておカネが作られているからです。

もし、誰かが借金をするのではなく、政府が通貨を発行したらどうでしょうか。それが「ソブリンマネー(制度)」です。政府が通貨を発行するのですから、誰も借金をする必要はありません。そして、政府が発行した通貨が、めぐり巡って私たちの貯蓄になるのです。その場合、将来世代へのツケが増えることはまったくありません。将来世代のツケを増やさなくとも、私たちが貯蓄を増やすことができるのです。

考えてもみてください。私たちが必死に働いて、節約して、おカネを貯めたとしても、それがなんと「将来世代へのツケ」が元になっているんです。努力しておカネを貯めるほど、将来世代を苦しめるんです。こんな馬鹿げた話はないでしょう。こんな通貨制度は止めるべきです。

ソブリンマネーを導入しましょう。

2018年10月2日火曜日

崩壊しないバブル景気をヘリマネで

バブル景気を知らない世代は、マスコミの誘導もあって、バブル期を単に忌まわしいだけの時代だと思っているかも知れません。しかしそうではありません。バブル経済の功罪を正しく理解することが大切でしょう。

バブル経済は必ず崩壊します。崩壊して長期的なデフレ不況を招き、多くの人を苦しめますから、バブル経済は決して歓迎すべきものではありません。しかし、バブル景気における当時の経済状況は、決して人々を不幸にするものではありませんでした。バブルの時代はどうだったのでしょうか?

一言で言えば「景気がむちゃくちゃ良い」。いま、アベノミクスで戦後最長の経済拡張期だ、などと評する人もいますが、笑ってしまいます。こんなものは好景気とは言えません。バブル経済の時代を知らないから、そんな暢気なことが言えるのでしょう。バブル景気に比べれば、アベノミクスは水増ししたオレンジジュースのようなものです。

バブル期は「一億総中流社会」などと呼ばれました。バブル期において多くの国民の所得が増加し、中間所得層が増加し、低所得層は減少したのです。当時は貧困や格差が社会問題として大きくクローズアップされた記憶はありませんし、もちろん「子供の貧困」など聞いた事もありませんでした。仮に貧困があったとしても、景気が良くて税収が潤沢ですから、社会保障によって手当てすることは容易だったはずです。財源ガー、借金ガーとは無縁です。

当時も人手不足だと騒がれました。しかし、人手不足が経済の足を引っ張るなんてことは、まったくありませんでしたね。そして、人手不足を背景として、賃金が上昇し、とりわけ、アルバイトのような非正規雇用(短期雇用)の賃金がすごく良かったのです。若年者なら正社員よりも良いくらいでした。そのため、正社員にならず、フリーのアルバイター(フリーター)として、おカネにゆとりのある生活を送る人もいました。あの時代こそが、多様な働き方の時代です。

おカネにゆとりがあるため、人々は高級品志向、本物志向になりました。これはムダな贅沢などではありません。質の高い商品、健康に良い食品、満足度の高いサービスを得ることができ、それは人々の生活を健康で豊かにしてくれるのです。それはおカネがあればこそ可能です。

もちろん、商品がどんどん売れれば、企業の投資も活発になります。それは新しい商品やサービスを生み出します。企業の活発な投資によって、企業の国際競争力も高まったでしょう。

当時はおカネがありましたから、多くの庶民がリゾート地へ、つまり地方へ人々がどんどん遊びに出かけました。これは地方の経済を活性化していたと思います。海に山に。今やカネのない庶民は「安近短」の旅行でおカネを使わなくなり、地方経済は外国人観光客だのみの状態です。観光業ですら「外需依存」です。

では、そうした「景気がむちゃくちゃ良い」状況がなぜ生じたのでしょうか?世の中におカネが溢れていたためと考えられます。実際、マネーストック統計を見ればわかりますが、バブル期のマネーストックの伸び(増加率)は、今の3倍くらいあります。それだけおカネが増えれば、当然ながら庶民の懐にもおカネが流れ込んできます。

では、このおカネはどこから出てきたのか?それは「借金」です。すべてのおカネは借金から出来ていますので、当然と言えば当然です。では誰の借金なのかと言えば、一つは投機筋(マネーゲーム)、もう一つは企業(実物経済)です。

バブルは、もう少し詳しく言えば、資産バブルになります。金融資産(株式、証券)、不動産(土地建物)あるいは先物(石油、金属資源)といった資産が、市場で転売され、価格がどんどん上昇する状態です。この取引は、銀行からカネを借りることで、活発に行われます。借金によって、膨大なおカネが発生します。

そして、これはあくまで「借金」なのですが、驚くべきことに、資産が上昇を続ける限り、借金で資産を売買する過程で、借金が「売買差益」つまり利益に化けます。この利益が世の中にどんどん流れ出してきます。これがバブル景気を支えます。

景気が良くなると、それは企業活動にも影響し、企業の投資が増加します。企業はさらなる売り上げ拡大を目指して商品を開発したり、生産ラインを増強します。ただしこの投資も銀行からの借金によって賄われますから、世の中全体の借金はますます増加します。

ところが、資産価格が天井知らずで上昇するなどあり得ません。実体経済の成長を超えて通貨が増え続ければインフレを招きますから、中央銀行が必ず金利の引き締めにかかります。こうして借金して資産を売買しても利ざやが抜けなくなると、ある時点で、売りが売りを呼び、資産価格が連鎖崩壊します。これは避けられません。

バブルが崩壊すると、あれだけ景気が良かったにもかかわらず、あっというまにデフレ不況になります。生産設備も労働力も、バブル崩壊の前後で何も変りません。供給能力は十分にあるのです。にもかかわらず、供給システムが機能不全を起こして、不況になります。カネが動かなくなるという理由だけで。

ですから、バブル景気は絶対に永続できませんし、意図して引き起こすべきでもありません。しかし、バブル期における好景気は悪いものではなく、むしろ歓迎すべきものです。では、バブル期のような好景気を、バブルに頼ることなく起こすことができるのでしょうか。考えてみてください。バブル期を支えたのは「マネーストックの伸び」です。マネーストックを伸ばせば、間違いなく景気が良くなるのです。

ただし、今までの古典的な手法(金融政策)であれば、おカネを増やすには誰かが大量に借金をするしか方法がありません。だから日銀が量的緩和をやって必死に貸し出し金利を下げています。バブル経済の時は、企業、投機筋が莫大な借金をしました。しかし今やそれは無理です。あるいは政府が借金することでおカネは作れますが、すでに景気対策のために、政府が膨大な国債を発行しておカネを作り出してきました。もう、これ以上、誰かに借金を押し付けることは難しいでしょう。では、どうやっておカネを増やすのか?

ヘリコプターマネーです。政府がおカネを発行するのです。

と言っても、無制限にカネを発行しろというのではありません。マネーストックの伸びを今の2倍にするだけでも年間30兆円くらいのおカネができます。これを国民に配るわけです。それでもバブル期のおカネの伸び率には及びません。そんなに心配なら、まず年間15兆円程度(国民1人当たり毎月1万円)から始めてみれば良いと思います。

ヘリコプターマネーによって、決して崩壊しない、バブル期並みの好景気を実現しましょう。これなら、バブル経済のように、突然に崩壊しておカネが回らなくなる心配はまったくありません。もし、心配する必要があるとすれば、それはヘリマネがバブルを誘発するリスクです。こうしたリスクに対しては、あらかじめソブリンマネーを導入することで完全に防止することが可能になるでしょう。

本編サイトにも同時掲載