2018年10月26日金曜日

政府通貨発行と政府通貨制度の違い

「政府通貨の発行」と「政府通貨制度」は似ていますが違います。しかし、一般に同じような使われ方をするため、混乱が生じてしまいます。では、何が違うのでしょうか。

政府通貨とは、政府が発行する通貨のことです。今の日本で言えば「貨幣(硬貨)」、500円、100円、50円、5円、1円です。これらは日銀が発行しているわけではありません。日銀が発行する通貨は「銀行券」です。もし、政府が紙幣を発行するなら、これは「政府紙幣」になるでしょう。

政府通貨とは、基本的に、こうした貨幣、あるいは紙幣、あるいは電子通貨のようなものを指します。政府が発行する政府通貨は当然ながら「法定通貨」です。これを発行し、それを財源として政府が様々な政策を行なうことが可能です。これは「政府通貨の発行」です。

一方、今日、流通通貨(マネーストック)のほぼすべては、民間銀行の信用創造によって供給されています。これが銀行預金です。多くの人が誤解していますが、日本銀行の発行する銀行券および日銀当座預金(すなわち現金)は、家計や企業に直接流れてきません。日本銀行の発行する現金(マネタリーベース)は、あくまで信用創造の元本のような形(正確には元本ではない)で使われているにすぎません。実際には民間銀行が通貨発行を行なっています。

では、どうやって民間銀行がおカネを発行するのか?家計や企業に預金を貸し出す際に発行されます。これが信用創造です。つまり、無の状態から、銀行の帳簿上に、資産として「貸し出し債権」、負債として「預金」を同時に発生させるだけです。この預金が家計や企業に貸し出されます。

ですから、貸し出しの際に、民間銀行が保有している(誰かから預かっている)現金を貸し出すわけではありません。現金は貸し出さず、新たに発行した預金を貸します。ですから、原理的に言えば、民間銀行は無限に預金の貸出が可能です。

ただし、それを放置すると世の中がおカネだらけになって「ハイパーインフレがー」になるでしょうw。そこで、今日の銀行制度である準備預金制度においては、銀行の帳簿上の預金金額に対して、その一定割合の現金を日銀当座預金に準備金の名目で積むことが義務付けられています。この一定割合のことを「法定準備率」といいます。この準備率に応じて、銀行は、自らが保有する現金の10倍~100倍の預金を発行して、貸し出すことが可能になります。

政府通貨制度は、こうした民間銀行の信用創造を停止することがその骨格になります。ですから、民間銀行は預金を発行することができなくなります。すると、銀行は保有する現金の量の範囲内でしか貸し出すことはできなくなります。

例えば、民間銀行が100万円の現金をあずかって、これを保有しているとします。銀行が貸し出しを行なう場合、これまでは、預金として1億円を発行し、1億円を貸し出すことができました。そのため、世の中のおカネは9900万円増えるわけです。一方、信用創造を停止すると、100万円の現金しか貸し出すことはできなくなります。

これは、普通の貸し借りと同じです。100万円を保有しているAさんがBさんに100万円のおカネを貸す場合、AさんがBさんに貸せるのは100万円までです。これが普通です。ところが、銀行は100万円しか持っていないのに、1億円を貸すのです。そのため、世の中のおカネの量が銀行の恣意的な判断によって勝手に増えたり減ったりします。

政府通貨制度では、民間銀行の信用創造を停止することが核になります。そうすると、世の中のおカネが増えなくなってしまいますので、必要に応じて、政府が通貨を発行して供給することになります。銀行は預かっている現金の量の範囲でのみ、おカネを貸すことになります。したがって、世の中のおカネの量が勝手に増えたり減ったりすることはなく、政府の供給するおカネの量、税金によって回収されるおカネの量によってコントロールされます。

信用創造を停止すると、銀行の貸し出すためのおカネが足りなくなるのではないか?と思われるかも知れませんが、そんな心配はまったくありません。銀行が貸すおカネが足りないとすれば、それは世の中に供給されているおカネの量が足りないだけの話なのです。もし、必要十分なだけのおカネを政府が政府通貨として供給すれば、それらは家計や企業から銀行に預けられ、銀行の保有する現金の量が今よりも大幅に増加するからです。そうすれば、貸し出すおカネが不足する心配はありません。

以上のように、「政府通貨を発行する」とは、民間銀行の信用創造はそのまま、政府が政府通貨を発行することであり、「政府通貨制度」は、民間銀行の信用創造を停止し、政府が政府通貨を供給すること、という違いがあります。

なお、ソブリンマネーとは政府通貨制度を指しますが、単に政府通貨を指している場合もあり、非常に混乱していますので、ソブリンマネーや政府通貨の話題の際には、「民間の信用創造をどう扱うか」に注意する必要があると思います。