2019年2月22日金曜日

日本が財政破綻しない理由

日本が財政破綻しないことは、ネットではほとんど常識になりつつあると思いますが、たまに質問が来るので、簡単に確認しておきましょう。

ただし、財政破綻の定義をしながら話を進めないと、話がややこしくなります。さもないと、ハイパーインフレも財政破綻も同じだと言い出す人が出てきます。破綻とインフレは同じものではありません。なんでもごちゃまぜにして考えると、混乱するだけです。


<財政破綻(資金繰りの破綻)>

財政破綻をネットで検索すると、「財政破綻は、国や地方自治体の資金繰りが行き詰ること」とあります。資金繰りがつまると、財政が継続できなくなり、政府の機能が停止します。これが財政破綻のもっとも単純明快な定義です。

資金繰りとは、おカネの入金と出金(=収支)をうまくバランスさせることです。おカネの調達とも言えます。たとえば、会社が破綻する場合、会社がおカネを十分に調達できなくなって、取引先におカネを支払えなくなります。これが債務不履行です。手形で売買を行なっている場合は、手形が現金に交換できなくなり、これが手形の不渡りになります。そうなると、その会社とは誰も取引してくれなくなるので、活動ができなくなり、倒産します。これが経営破綻です。

ところで、会社の収支が赤字になると、すぐ倒産するかと言えば、必ずしもそうではありません。おカネは借り入れによって調達できるからです。つまり、銀行が会社におカネを貸し続ける限りは、どれほど赤字の会社であっても、倒産することはありません。ただし、慢性的な赤字の会社に銀行はおカネを貸しませんので、いずれ倒産します。

政府も同じで、赤字であっても破綻しませんが、おカネの調達ができなくなると、倒産します。日本の政府も税金による収入が不足した状態にあります。そのため国債を発行し、主に銀行からおカネを借りて資金繰りを行なっています。日本政府は慢性的に赤字ですから、銀行がおカネを貸さなくなるかも知れません。そうなると、普通の会社であれば、間違いなく破綻します。

しかし、政府には日本銀行という銀行があります。民間の銀行が国債を買わなくても、日本銀行が国債を買うことによって、おカネを調達することができます。あるいは、日本国には「通貨発行権」があって、通貨を発行する国民の主権がありますので、政府が500円や100円の硬貨を発行するのと同様に、おカネを発行することで調達できます。つまり、

どんなに赤字でも政府は破綻しない。

原理的には、絶対に破綻しないわけです。ただし、意図的に破綻させることは可能です。つまり、日銀が国債を買うことを禁じる、あるいは、日本国がおカネを発行することを禁じる、といった具合です。


<デフォルト(債務不履行)>

正確に言えば、デフォルトは財政破綻ではありませんが、一般にはデフォルト(債務不履行)が財政破綻という意味で使われます。会社の場合、デフォルトとは、取引先におカネの支払いができなくなることであり、手形が不渡りになることであり、借金が返済できなくなることです。それが原因で、会社は経営破たんします。

政府のデフォルトは、国債の償還ができなくなること、国債の持ち主に、おカネを支払うことができなくなることを一般に指します。デフォルトすると、誰も国債を買ってくれなくなるため、資金繰りができなくなって財政破綻します。つまり、デフォルトは、正確には財政破綻ではなく、財政破綻の原因です。

では、なぜ国債がデフォルトする国があるのかと言えば、その国の国債が外貨建てだからです。

日本の国債はすべて円建てであり、円によっておカネを借りた状態です。この場合は円でおカネを返せばよいわけです。もし、おカネを返済する時点で、政府に税金で集めたおカネが不足していたとしても、足りない分は政府が円通貨を発行して返済することができます。具体的には日銀が円通貨を発行して国債を買い取ります。ちなみに、量的緩和政策を継続して、あらかじめ日銀が国債を全部買い取ってしまえば、デフォルトは起きません。

ですから、日本政府の国債がすべて円建てであることから、意図的にデフォルトさせない限り、国債がデフォルトすることはありません。

ところが、外貨建て国債の場合は事情が異なります。例えば、日本の国債がドル建ての国債である場合です。もし、日本の国債がドル建てだった場合、政府はドルでおカネを借りていることになりますから、返すときにはドルで返さなければなりません。ドルはアメリカの通貨なので、日本政府がドルを発行することはできません。ですから、ドルが不足すると、返済できなくなる場合があります。

もちろん、円を発行して、それを為替市場でドルに交換して支払うことは可能です。しかし、それは日本のように経済規模が大きな先進国だから可能なことです。もし小さな途上国だったら、大量の自国通貨をドルに換えることは難しいです。また、金融危機になると、為替市場では自国通貨が暴落し、ドルを買うことができなくなり、ますますもって返済が不可能になります。金融危機で途上国の国債がデフォルトするのは、そのためです。

さらに言えば、ユーロ圏の国は、もっともデフォルトリスクが高いと言えます。例えばギリシャ。ギリシャの国債はユーロ建てになります。ユーロはギリシャの自国通貨だと思い込んでいる人が多いですが、ユーロはギリシャ政府が発行しているのではなく、どこの国でもない、ヨーロッパ中央銀行が発行しています。

つまり、ギリシャはユーロに加盟することで、通貨を発行する国民の主権を放棄しています。ギリシャはユーロ通貨を発行できませんので、ユーロは自国通貨ではなく外貨と同じです。ですから、ギリシャのユーロ建て国債は事実上の外貨建て国債になります。

そのため、通貨を発行してユーロ国債を返済することはできません。つまり、増税しなければ、即、デフォルトします。そのためギリシャでは容赦ない増税と社会福祉の切捨てが行われ、国民は困窮しています。

以上が、財政破綻しない理由になります。


<ハイパーインフレは財政破綻?>

ところで、「財政破綻を避けるためにおカネを発行すると、ハイパーインフレになるから、ハイパーインフレは財政破綻だ」、と言い出す人がいます。しかし、破綻とインフレは違う現象です。財政破綻とは財政の継続不能であり、ハイパーインフレは物価が暴騰することです。

ですから、財政破綻するか、しないか、といえば、意図的に破綻させない限り、絶対に破綻しません。

もし「財政破綻しない代わりに、ハイパーインフレを引き起こすリスクがある」と指摘するなら、それは正しいでしょう。しかし、通貨を発行して国債を購入しても、必ずしもハイパーインフレを引き起こすとは限りません。インフレは財政と違って、おカネの収支とは別の要因が絡んでいるからです。

実際、日銀の量的緩和によってすでに300兆円以上の国債が買い取られましたが、ハイパーインフレはおろか、2%のインフレすら達成できない状態です。つまり、日銀がカネを発行する=即インフレ、という図式は成り立たないのです。

このことは、通貨制度、需要と供給、あるいは外国との関係などが絡んできますので、簡単ではありません。それは、またの機会に。