2022年7月3日日曜日

3)インフレが生活を貧しくするのではない

 多くの人はインフレになると生活が貧しくなると思い込んでいますが、インフレそのものが生活を貧しくすることはありません。所得格差が生活を貧しくするのです。物価は国民の豊かさにとって直接に関係するものではなく、本質的には財の生産量が豊かさを決めます。ただしインフレは経済活動に影響してきますので、そういう意味では無視してよいわけではありません。インフレに対して短絡的に騒ぐのが間違いなのです。

 国民生活の豊かさを決めるのは「財の生産量」です。より多くの財を生産できれば、人々は必ず豊かになります。物価は豊かさを決めません。物価によって財の生産量が変わるわけではなく、物価とは、単に市場における通貨と財の交換レート(交換比率)に過ぎないからです。例えば、財の生産が日本全体で100あったとしたら、仮に物価が2倍になったところで、同じ100の生産量が保たれるなら、日本全体として貧しくなるはずがありません。にもかかわらず、貧しくなるのだとすれば、それは同時に分配の不公平、所得格差が生じているはずです。


 物価が2倍になっても貧しくならない理由は、通常、物価が2倍になると賃金も2倍になるからです(三面等価の原則から)。ところが、所得の分配に格差が生じた場合、Aさんの賃金は3倍になり、Bさんの賃金は同じまま据え置き、という事態が生じます。こうなると、インフレであってもAさんは豊かになり、Bさんは貧しくなります。Bさんが貧しくなる理由はインフレではなく、分配に偏りが生じること、つまり所得格差が原因なのです。


 ですから、インフレだけであれば、再分配政策によってすべての国民の生活を公平に保つことが可能なのです。


 ただし、現在起きているようなインフレは少し異なります。これは、国際紛争やコロナによる物流ネットワークの停滞によって、資源・原材料が不足し、コストが上昇し、財の生産そのものが減ることによって生じてきます。財の生産が減るのですから、社会全体として貧しくなることは避けられないと言えます。この場合は、生産量そのものが減るのですから、インフレを無理に抑制したところで、貧しくなることは避けられません。ですから、インフレを抑制することよりも、所得格差を縮小する再分配政策が重要になります。そうしなければ、貧しい人だけが、ますます貧しくなる事態に陥る危険性があります。


 日本の場合は、資源の大部分を輸入に依存していますから、資源価格の高騰は国民の貧困化に大きく影響します。こうした外部の影響を小さくするためには、できる限り国内で資源を調達できるようにしなければなりません。再生可能エネルギーは日本で調達できる資源ですし、食料自給率も高める必要があります。こうした対策には時間が必要ですから、長期的な計画に基づいて国策として実行する必要があります。インフレを本質的に解決するには、この方法しかありません。


 このようなインフレでは、インフレになったからと言って、金利を上げてインフレを抑制すれば問題が解決するわけではありません。過度にインフレを抑制すると、景気が悪くなって、賃金が減るため生活が苦しくなります。結局、財の生産量が減るのですから、インフレを抑えたところで、生活が苦しくなるのは同じことなのです。本質的には財の生産を増やさなければインフレ問題は何も解決できません。


 もしかすると、ウクライナ侵略戦争が終結すれば、資源価格が落ち着いてインフレが早期に解消するかもしれませんが、そうでなければ、インフレが長期化することもあり得ますし、その場合は、先にふれたように、資源の海外依存から脱却するための長期的で地道な努力が必要になると思われます。ですから、その間に人々の生活を守ろうとするなら、社会全体としての貧困化を特定の人々に押し付けることがないように、再分配政策をしっかり行う必要があるでしょう。