2017年1月16日月曜日

アイスランドの通貨改革案

民間銀行の信用創造による弊害を防止するため、いくつかの新しい通貨制度が検討されています。ここにご紹介する通貨改革案は、アイスランドの総理大臣より委託され、作成された報告書に記載されているものです。日本語訳は以下のリンクにあります。

http://frostis.is/wp-content/uploads/Monetary-Reform-Japanese-Translation.pdf

日本語訳の冊子は98ページあり、内容も濃いですが、今回は新しい通貨制度の仕組みについてのみ、取り上げます。本文から一部を抜粋し、それを補足する形でご説明します。長くなるので、要点だけさらっと紹介します。

(以下、本文「要旨とまとめ」からの抜粋部分は斜体)

統治通貨制度では、民間銀行は通貨を発行しない。代わりに、この権限は中央銀行に委ねられる。中央銀行は、経済社会全体の福祉のための仕事をする義務を負っている。統治通貨制度においては、すべての通貨が、それが物質的であれ電子的であれ、中央銀行によって発行される。

現在の通貨制度では信用創造により、民間銀行が事実上の通貨を発行しています。それが預金通貨です。ここではそれを禁じ、すべての通貨を中央銀行が発行することにします。日本で言えば日本銀行だけがすべての通貨を発行します。

商業銀行はもはや通貨を発行することができないが、それでもなお顧客間の決済業務を請け負ったり、預金者と借主との間を仲介しつつローンを行い続けることになる。

商業銀行(民間の銀行)は、通常、預金通貨を発行してそれを貸し出す(これが信用創造)ため、預金通貨の発行を禁じると貸し出しができなくなると思われてしまいますが、別の方法を用いて貸し出しを可能にします。

決済業務は、個人や企業が有する取引口座から成る。取引口座の資金は、中央銀行によって発行された電子統治通貨という形をとる。取引口座は、中央銀行が管理するため、リスクを伴わない。また、銀行がこれを使って投資を行うことができないので、金利がつくこともない。

現在の銀行制度では、私達が銀行口座を持つ場合、それは民間銀行の預金口座だけ、つまり一種類だけです(当座・普通・定期はすべて預金口座の一種)。新しい制度では私達は二種類の口座を持ちます。「取引口座」と「投資口座」です。

一つ目の「取引口座」は民間銀行の口座ではなく中央銀行の口座です。日本で言えば、すべての個人や法人は日本銀行に口座を持つことになります。そして決済業務はすべてこの口座を用いて行われます。つまり物品の購入代金やサービスの利用料金、商品の仕入れ、従業員への給料の支払いなどは、この「取引口座」を用いて行われます。その点で言えば、今の普通預金とあまり変わらない使い勝手になります。ただし口座は日銀にあります。また預金口座と違って金利は付きません。ちなみに当座預金も金利が付きませんね。金利が付くのは別の口座になります。なぜなら、これは取引専用の口座だからです。ですから、この口座にあるおカネは100%保護されます。つまり金融危機が起ころうが何しようが、失われることはありません。取り付け騒ぎとは無縁です。

仲介業務は、個人や企業が有する投資口座から成る。資金を取引口座から投資口座へと移動することは可能である。投資口座に預けられた資金は銀行による投資に使われ、指定の期日まで、あるいは予告期間を過ぎてからは、口座の所有者はこれを使用することができない。契約期間は45日間から数年間にわたるまで様々である。各銀行は、様々なリスク属性、満期レート、金利レートを備えた投資口座を提供し、様々な資産家の要望に応じることができる。

もう一つの口座は「投資口座」です。投資口座は日銀ではなく、民間銀行の口座です。こっちは金利が付きます。なぜなら、この口座に入っているおカネは投資に利用されるからです。金利を求める個人や法人は、先ほどの「取引口座」からこちらの「投資口座」へおカネを送金します。このおカネは投資に使われますので、期日(45日から数年)までは動かすことができません。ちなみに定期預金も動かせませんね。民間銀行はこの取引口座にあるおカネを使って投資(貸し出し、株式投資、債権投資など)を行います。投資口座は投資先のリスク・リターンに応じて複数の投資口座が用意されます。そしてリスクが高い投資口座は損失を出すこともあります。この口座は民間銀行にありますから、現在の預金と同じように、銀行が倒産すれば失われるリスクがあります。

経済成長を支えるために必要な通貨を発行する責任は中央銀行にのみある。金利の増減によって他の銀行による通貨発行に働きかけようとする代わりに、中央銀行は直接マネーサプライを変更することができる。通貨発行に関する決定は、政府から独立し、かつ透明な決定過程をもつ委員会が行う。つまり、既存の金融政策委員会のようなものである。

マネーサプライ、つまり「世の中のおカネ」はすべて中央銀行が発行するいわば「現金」だけになります。現金と言っても紙幣や硬貨だけでなく、電子通貨や通帳のおカネも現金の一種です。ですから使い勝手は今までと何ら変わりません。現在は日銀が金利を操作することで世の中のおカネの量をコントロールしていますが、新しい制度では、日銀がおカネを発行したり、回収したりして世の中のおカネの量を直接に調整します。この通貨の発行量を決定するのは、政府から独立した透明性の高い委員会(日銀の審議委員より、もっと優れた方法が必要でしょうね)が行います。

中央銀行によって発行される新しい通貨は、まずは政府に送金される。そこから政府は、歳出を増加したり、減税をしたり、国債を返済したり、市民に現金給付を行うことによって、この通貨を経済に流入させることになる。さらに、中央銀行は銀行に融資する目的で通貨を発行することもできる。銀行はこのとき、金融部門の外にある様々な企業に融資を行うことができる。

発行された通貨は、政府を通じて、財政支出として世の中に供給されます。これらは税制支出などに使われますが、これをすべてベーシックインカムの財源に当てることもできます。つまり、通貨発行益は国民にすべて還元されます。

通貨発行益はすべて国民に還元されます(重要)。